05.座学講習
葛城さんの手によって全てのゲートを閉じられる。
ゲートの向こう側がどんな世界なのか俺はまだ知る由がない。パートナーのちび猫又を得たが、すぐには向こうの世界に連れて行ってはもらえないのだろうか?
「それじゃあ、別の部屋に移るわよ」
「俺は上に行って、ジジィに報告しとくぜ」
俺と葛城さんはここのゲートの場所までにあった部屋の一つに入り楠さんと別れる。ちび猫又はまた俺の腕のなかで眠ってしまっている。寝る子は育つからよしとする。
部屋はミーティングルームのようだ。複数の椅子と机。ホワイトボードに大きなスクリーンがある。
「おちびちゃんはここね」
どこからだしてきたのか机の一つにバスタオルが畳まれ置かれた。俺はそっとちび猫又を起こさないようにおろし、頭をひと撫でする。今まで動物を飼うなんて余裕がなかったけど、俺は動物好きだ。特にもふもふは大好きなのだ。でも、下宿先の大家さんになんて言おうか……。
「さあ、アキくんも座って」
どうやら、俺はアキくんに固定のようだ。嫌じゃないよ。美人のお姉さんにアキくんなんて呼ばれるのが嫌いな男がいるわけない。美人のお姉さんは嫌いですか?
まあ、それはさておきホワイトボード前の一番前の席に座る。
葛城さんが分厚いA4サイズの束を渡してくる。よく見ると葛城さんが黒縁メガネをかけ伸縮する指示棒を持っている。おそらくあれは伊達メガネだ。ポニーテールの黒髪美人良く似合っています。残念なのはカフェの制服ってことだ。そこは白のブラウスにスカートだろう!
「それではアンダーワールドシーカーについての座学講習を始めます」
メガネの端をクイッと上げた葛城さんの講義が始まった。
「最初にアキくんはそこのおちびちゃんと契約したと思うけど、ちゃんと守ることができる契約をした?」
「こいつとの契約は……」
「あー、言わなくていいわよ。あまりほかには契約内容を言わないほうがいいのよ。それを知った同業者に悪さされることもあるから」
契約内容を知られてもそれほど困ることはないけど、人によっては自分よりいい条件で契約できたことに嫉妬する者もいるし、その契約条件を反故させる者もなかにはいるようだ。シーカーのなかにもいい人もいれば悪い人もいる。注意が必要だということだ。
「大丈夫です。こいつとの約束は絶対に守ります!」
月読様から託された大事な眷属。それ以前に契約内容が軽すぎる。普通の猫好きなら誰でも守れる内容だ。それにこのちび猫又、本当に誰が見ても可愛く愛くるしい顔だちだと思う。俺のパートナー以前に悪い奴に連れ去られないかのほうが心配になってくる。
「そうね。最初のマギだから大事にしてあげてね」
「マギ?」
「マギというのは契約した異界の者のことを指す言葉ね。一般的には私たちのことは秘密だから、周りの人たちにわからないように隠語を使うのよ。業界用語ってやつね♪」
そこから長い話が始る。大学のむさい講師陣の講義と違い、ここで教鞭を執るのは美人講師。内容は和風ファンタジー、面白くないわけがない。お昼を喫茶店に戻りサンドイッチを食べ、また講義再開。気づけばもう夕方。
ちなみにちび猫又はツナフレークをもらい、みんなに愛嬌を振りまきながらうみゃうみゃ食べていた。今は喫茶店のほうで面倒をみてもらっているというか、みさせてくれと頼まれた。喫茶店なのに猫を店にいれていいのか? まあ、本当の喫茶店かは怪しいけど。
「アキくん。明日も来れるのよね?」
「日曜なので問題ありません」
「若いのに枯れてるわねぇ。彼女いないの?」
ぐぅ。余計なお世話です!
「じゃあ、明日は実地研修ね。何も用意はいらないから、今日のような服装でいいわよ。あと、おちびちゃんを忘れずに連れて来てよ。忘れると本末転倒だからね」
ですよねー。実はおいて来ようかと思っていた。あんなちっこい体で本当に戦えるのかって思ったからな。でも、俺のマギだから当然か。
喫茶店に戻り紅茶をごちそうになっていると、マスターから封筒が渡される。中を確認すると万札が入っていた。
「十六夜くんの研修とはいえ、時間を拘束しているから仕事の一環ですのでお気になさらず。それからおちびちゃんのことは上に報告をあげましたので、後日報酬が支払われますのでお待ちを」
上とはもちろん国のことだ。報酬とは異界についての新発見という名目でもらえるらしい。このちび猫又に関して新たなる発見があれば報告する度に報酬がでることになる。マスターはそれほどの新発見だと言っている。
これは、月読様のお恵みだな。ありがたや~。
当のちび猫又は葛城さん含め数人の女性陣に囲まれている。葛城さん以外の女性陣もシーカーなんだそうだ。俺に向かってウインクされたときにはドキッとした。なんせ、彼女いない歴、年齢だから……女性の免疫がない!
これも貧乏が悪いんだ!
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