04.眷属

「待宵!」


 別に声を出さなくてもいいらしいけど、ここはお約束。


 地面からモコモコっと何かが浮き上がり人型に形造られていく。



「はにゃ!」


「「……」」


 月読様、何か言ってください!


「埴輪じゃな……」


「ハニワですね……」


 体長二メートルの鎧姿。顔は、はにゃっとしたおとぼけ顔。腰には剣を差している。一見、顔以外は強そうに見える。でも、はにゃ! って……。


「つ、強そうですよね?」


「いや、弱いであろう。今のアキが召喚したゆえ……」


 月読様が何かつぶやくと、目の前に石柱が隆起してくる。


「これを攻撃するように命令してみよ」


「えーっと、ハニワくん? これを攻撃してみて」


「はにゃ!」


 ハニワくんが石柱の前に立ち、フンス! と手に剣を持ち、持った剣で石柱を切りつける。いや、殴りつける?


 ガシャーン!


「「……」」


 いや、おそらくそうなるだろうとは思ったけど……剣が粉々に砕けたね。


「はにゃ?」


 ガシャーン!


 今度は壊れた剣を捨てて拳で攻撃したけど、肩の辺りまで粉々になった……。


「はにゃ?」


 ガシャーン!


 蹴りでの攻撃も虚しく脚が砕けてひっくり返り、地面でバタバタしてますね……。


「はにゃ~」


「アキよ、還してやれ……」


「はぁ……」


 心の中でご苦労さんと言うと、光を放ち霧散した。


「まあ、こんなもんじゃろう……精進あるのみぞ」


「はい……善処します」


 とは言ったもののはにわくんあれは強くなるのだろうか?


「さて、そろそろ其方を戻さねばならぬ時間よのう」


「ここに自由に来ることはできないのですか?」


「それは無理というもの。仮にもここは神域。そうそう来るべき場所ではないゆえ」


「でも、ここに今いますよね」


「魂だけがな。体は向こうにあり、一歩も動いておらん」


「どうすればここに来れるようになりますか?」


「強くなればよ。猫又と心を強く繋げば、いずれここに来ることもできよう」


 当分は無理そうだ。勇往邁進あるのみ!


「其方のことは猫又を通してみておるゆえ、何かあれば多少の手助けはできよう。が、驕るでないぞ。いつでも手助けできるとは限らぬゆえな」


「肝に銘じておきます」


 ちび猫又は俺の腕の中でスヤスヤ眠っている。よく見ると尻尾が二つなのだけど、ただのちび猫にしか見えない。


「それから、うつし世の者に妾のことを言うてはならぬぞ」


「それはなぜですか?」


「面倒事に巻き込まれたくば言うても構わん」


「……やめておきます」


「それが賢明よ。其方の傍に行けるようになること楽しみにしておる。鋭意努力するがよい」


 返事を返そうとした時には、目の前が暗転していた……。


 気付けば、元いた地下室。どの位の間、向こうに行っていたのだろうか?


「どういうことだ? 全く反応がないぜ」


「おかしいわね。陣はちゃんと起動してたのに接触がないなんて……」


 振り向くと二人が怪訝な顔をして話をしている。どうやら、それほど時間は過ぎてないようだし、葛城さんたちには月読様の神域に行ったことは気付かれてないようだ。


 さて、どう説明しよう。腕の中にはちび猫又がいる。月彩の英気はあるけど、俺のパートナーはこのちび猫又だしな。


「あのぅ」


「悪いがもう少し待ってくれ」


「誰も接触してこないなんて……向こうで不測の事態でも起きてるのかしら?」


「あのぅ……契約は終わってますよ?」


「だから、もう少しそこでじっとしてろ!」


「そうよ。契約できなかったことなんて今までなかったんだから!」


「ですから、契約は終わってますよ?」


「「!?」」


 俺は寝ているちび猫又を二人に見せる。


「マジかよ……」


「嘘……いつの間に」


 そこからの説明が大変だった。通常の契約の場合、葛城さんや楠さんにも契約するところが見えるそうなのだ。その時に契約が上手くいかなかったり、異界の者が暴れたりする不測の事態のために葛城さんたちが控えていた。


 俺が月読様の所に行っていたのは一瞬のことのようで、葛城さんたちから見ればいつの間にか契約が終わりちび猫又がいたということらしい。なので、なかなかに誤魔化すのが難しかった。結局、胡蝶の夢のような感じで精神世界で契約したということで納得してもらうしかなかった。


「契約相手が子猫とはなぁ……前代未聞だぜ? それになんで具現化してるんだ?」


「そうね。異界の猫と契約を結ぶなんて聞いたことがないし、実体化してるなんて不思議ね。高位の者じゃないと無理なはずなんだけど……」


「子猫じゃなくて猫又なんですけど……」


 それに言えないけど月読様の眷属だから


「いやぁ。そう言われてもなぁ?」


「ただの子猫にしか見えないわね」



 ちび猫又はようやく起き出して欠伸をしてから、目をパチクリさせて俺を見上げる。なんてあざとい可愛さだ。十人中が十人、庇護欲を掻き立てられること間違いない。


「可愛いでちゅねぇ。お名前は?」


 既に、ここにその可愛さに落とされた人がいる。


「名前はまだありません」


「それを言うなら、名前はまだない、だろう? で、どんな能力を持ってるんだ? そのおチビちゃん」


「今はまだ、たいした力はないようです」


「今は、か……」


「猫又と言ったら妖怪よね。そんな種族が文献だけじゃなく本当にいたのね。新発見よ!」


 日本古来から妖怪やお化けなどの逸話は多くある。ほとんどの妖怪は空想上のものだが、実際に異界からこちら側に出てきた異界の者が妖怪として昔の文献などに残っている。そういう異界の者を退治して来たのが陰陽道や神道、仏教に係る人たちが携わっていた。


 そんな古来から続く方たちの文献にも猫又は出てこないらしい。


 今は人材不足でそういう専門家はほとんど国関係の仕事に就いている。そこで、俺のような多少なりとも力のある民間人を募集してる。俺が所属する光明真会は真言宗の流れをくむが完全な民間組織。


 そんな民間組織で歴史的に見ても最初の実物猫又。


 そりゃあ、新発見だな。


「にゃ~」


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