03.月読命

 月読様が言うには伊邪那岐命と伊耶那美の間に生まれた、れっきとした女性だそうだ。古代ではちゃんと女神おんなかみとして祭られていたが、男尊女卑の思想が広まるにつれ男神おとこかみに変えられていったそうだ。


「嘆かわしことよ」


「はぁ……。そう言えば、自己紹介がまだでした。十六夜聖臣と言います。アキとでも呼んでください。それで、俺がここに呼ばれた理由はなんでしょうか?」


「さっきも言ったであろう。其方と絆を結ぶためよ」


「絆ですか?」


「其方、力が欲しいのであろう? なれば、妾と絆を結べばよい。其方は妾の血族、絆を結ぶ資格があるゆえ」


 そもそも、契約と絆の違いってなんだ? 心の繋がりとか言ってたな。葛城さんに契約について詳しく聞いておけばよかった。


「絆と契約の違いってどんなものなのでしょうか? 俺は契約を結ぶ儀式の途中だったので絆と言われてもよくわからないのですが」


「ふむ。よかろう」


 月読様が契約と絆の違いについてご教授してくださいました。


 契約は先ほど言っていたように利害が一致した者同士が結ぶもの。異界の者と契約を結ぶとパートナーとなって一緒に戦ってくれるようになる。一緒に戦ってくれる代わりに対価が必要で、契約する時にその対価を決めるそうだ。


 その対価が払えるのならパートナーとなるし、払えない或いは払いたくないとなれば契約はできない。一度契約を結んでもその対価に対して約定を違えれば契約は破棄されていなくなる。


 逆に対価をちゃんと払いお互いに信頼しあい、信頼関係が最高潮になった時に絆が結ばれて対価なしでの真のパートナーとなってくれるそうだ。


 要するに月読様は契約を飛び越して、対価なしのパートナーになってくれるということ。


「とはいえ、其方は余りにも未熟。妾と真の絆を結ぶのはまだ先のこととなる。代わりに妾の加護を与えるゆえ、妾の眷属と契約を結び力を付けるがよい」



 足に何か触れる感じがしたので下を見ると白に銀色の模様のサバトラの子猫が、俺の足に体を摺り寄せている。このサバトラ猫のおチビちゃんが俺のパートナー?


 抱きあげてやると可愛い声で鳴いた。


「にゃ~」


「この子と契約を結ぶのですか? てっきり、月読様の眷属だと言ってたので兎かと思っていました」


「小さいなりじゃが、れっきとした猫又じゃ」


 死者の魂が黄泉に向かう際に猫が付き添うなど、月読様と猫の繋がりは強いそうだ。


 この境内にいる猫は全て猫又で、このちび猫又は歳を重ねて猫又になったのではなく、猫又と猫又の間に生まれた生まれた時から猫又のエリートになるそうだ。だけど、まだ小さいのでたいした力はないらしい。俺と一緒に強くなれということだ。


 このちび猫又との契約対価は、名前をつけること、ご飯を食べさせること、可愛がることの三つ。これって対価と言えるのだろうか?


 それから、月読様から頂いた加護は月彩の英気というものだ。


 異界の者と契約を結び信頼関係を築いていくと、稀にパートナーの一部の能力アビリティーが使えるようになるとか、本人の眠っていた潜在能力が目覚めることがある。


 月彩の英気は本来信頼関係を築いて使えるようになるその能力アビリティーを、加護という形で月読様の力の劣化版を使えるようにしたものらしい。残念ながら、最初からすべての能力を使えるわけではないようで、己を磨くことで少しずつ開放されるそうだ。


 ちなみに、月彩の英気で最初から使える能力は三つ。攻撃技の偃月、回復の風月、眷属召喚の待宵だ。偃月と待宵、風月について月読様から説明を受けた。


 偃月は近中遠距離の万能型の攻撃技。弓張り月とも呼ばれる半月の形をした十五センチほどの物体が三つ展開し、自在に飛ばして攻撃できる。そう、フラガラッハだ。ロマン武器なのだ! これで俺もヒーローになれる!?


 風月は癒し。今の俺の力でもちょっとした傷くらいなら跡形もなく治る。残念ながら、病気などなどには効果があまりなく、部分的な場所の治癒力を高める効果のようだ


 己を鍛えることにより攻撃力が上がったり、回復量も増える。但し、満月と新月の日だけは加護の能力が半減する。光も影もお互いにあってこそ力を発揮するため、どちらか一方では本来の力を発揮できないらしい。


 そして待宵! 眷属召喚! なんて浪漫あふれた響きだろう。眷属召喚については今から実際にやってみる。月読様も何が召喚されてくるかわからないそうなので、試しに召喚してみせろと言われたからだ。


 通常、能力を使う時は体内にある理力なるものを使うらしく、理力の保有量は人それぞれなので、使ってどのくらい保有しているか把握する必要があるそうだ。


 俺の場合、月読様の血族ということで月読様と俺の理力を繋げ理力の回復量をアップしてくれるうえ、偃月と風月の二つに限っては特別に月読様が理力を肩代わりしてくれるそうなので、今のところ理力を必要とするのは待宵だけ。なので、思いっきりやってみろとのこと。


 なぜ、待宵だけ俺の理力を使うのか聞いたところ、月読様の理力で眷属召喚を行うと強力な眷属が現れ、未熟な俺のいうことを聞かないだろうと言われた。眷属は自分の力に合った者を呼ばないと駄目らしいので、自分の理力を使わなければならないそうだ。


 では、やってみましょうかね。ちょっとわくわくしている自分に苦笑いだ。



「待宵!」


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