02.契約
約束の土曜日。喫茶アンダーワールドに来ている。朝の八時だがドアにオープン札が掛かっている。中に入ると既にお客もいるようだ。
カウンター内にはこの前面接してくれたマスターと、お店の制服に身を包んだ優し気な長身の美人さんがいる。
「お待ちしてましたよ。そういえば自己紹介がまだでしたね。改めまして、私がこの店のオーナー件マスターの
「はじめまして。私があなたの教育係になる、
「十六夜聖臣です」
葛城恵里佳さんが契約の担当者なんだろうか? 今、教育係って言ってたよな。
「取りあえず、場所を移しましょうか」
葛城恵里佳さんの後を追い、店を出てビルのエレベーターに乗る。階を選ぶボタンの下の方にカードのような物をかざすとエレベーターが動き出し、表示がないはずの地下に向かって降りて行く。
「地下には
体感で四階分くらい降りた所でエレベーターが止まりドアが開く。通路を進むといくつかのドアがあるが入ることなく、その先にあった階段を更に下りていく。
階段を下りてついた場所は広い空間だった。その空間の壁にはいくつものシャッター並んでいて更に奥に進めるようになっているようだ。
「待ってたぜ」
後ろから急に声をかけられビクッとしてしまった。いつの間に後ろにいたのだろう?
「時間どおりのはずだけど?」
「新人は久しぶりだからな昨日から来てたんだよ」
「それはレンの勝手じゃないかしら?」
「まあ、そうも言うな。俺は
「十六夜聖臣です。よろしくお願いします」
「おいおい、もっと気楽にいこぜ。それよりすぐに始めるのか?」
「アキくんに説明してからよ」
どうやら、ここで契約の儀式をするみたいだ。始める前に葛城さんからいろいろ説明を受けた。
まず、葛城さんは俺の教育係として当分の間一緒に異界に行く。楠さんはこの支部のエースらしく、俺の契約の儀式の手伝いをしてくれるらしい。ちなみに、俺が所属するこの組織は光明真会と言って真言宗の流れを汲むそうだ。うちも真言宗なので丁度いいのか?
最初にできる契約は一度きりなので慎重に考えるように言われた。儀式を始めると契約してもいいという異世界の住人が目の前に現れ、その中から生涯のパートナーを選ぶことになる。但し、害意を持つ者もたまに現れるらしく、そのために楠さんが一緒にいて万が一害意を持つ者が現れた場合排除してくれる。
ちなみに、ここで契約できるのが一度きりということで、異界に行くとたまに契約しようと言ってくる異界の者もいる。いくらでも契約できるようではなく、詳しいことは後日座学で教えると言われた。
「準備はいいかしら?」
「は、はい」
「おいおい、気を楽にしろよ。パートナーを選ぶ時は直感だ。変に考え込むなよ」
「は、はい」
「じゃあ、始めるわね」
葛城さんはそう言って手に持った機器を操作し始めると、全ての壁のシャッターが開き始めた。シャッターが開いた場所には鏡があるように見える。
「この支部にある異界の扉を全部開けたわ。扉を開けなくても契約はできるのだけど、扉が開いてるほうがこの場所に来てくれる確率が高いの」
そう言われた後すぐに、青白い光が俺を包んでいく、足元を見ると魔法陣……いや、曼荼羅? のようだ。その曼荼羅の中心におれは立っている。
何が起きるのかドキドキしてたが数分経っても何も起きない。葛城さんと楠さんを見ると表情にクエスチョンマークが浮かんでいる。あれ? もしかして俺ボッチ?
と思った瞬間、雷に打たれたのではというくらいの衝撃を受ける。雷に打たれたことないけどね。
などと思っていると、目の前が暗転していった……。
ふと、目を覚ますと大きなお社の前に立っていた。空は暗く夜のようだが周りははっきりと見え、お社の境内で多くの兎と猫が我が物顔で闊歩している姿が見られる。もふもふパラダイスか!?
まあ、それは置いといて、ここはどこだ? さっきまで喫茶アンダーワールドの地下にいたはず。周りを見渡すと背後に地球があった。
そう、地球だ。このアングル、どこかで見たことのある情景だ。月だ!? そう、このアングルは月の表面から地球を見ているアングルだ!
なんて美しい情景なのだろう。思わず思考を停止して見入ってしまった。
「誰の波動かと思いて喚んでみれば、妾の血族であったか」
声のしたほうを向くとお社に長い黒髪のそして、黒い巫女姿の女性が立っている。
「喚ぶ? ここはどこですか?」
「見てわからぬか? ここは月ぞ」
「月……なぜ、喚ばれたのでしょうか?」
「汝、絆を求めたであろう?」
「絆? 契約のことですか?」
「絆と契約は違うものぞ。契約とは利害が一致して結ばれるもの。絆とは心と心の繋がりぞ」
正直、何が何だかよくわからない。わかるのは目の前の女性から半端ないプレッシャーを感じることくらいだ。そもそも、月と言っていたがここは
「ここは
「其方たちから見れば
「黄泉……死者の国」
「死者のではない、神々のが正しい」
「では、貴方も神なのですか?」
「当たり前であろう。其方、いったい誰と話していたと思うておる?」
「いえ、なんとなくは神様かなぁっては思っていましたが、突然のことで理解が追いついていませんでした。申し分ありませんでした!」
体を九十度にして平謝り。
「よいよい。確かに急だったゆえ。
よ、よかったぁ。どうやら、怒ってないようだ。神罰なんてご免被りたい。
「それで、俺がここに喚ばれた理由の絆の件なのですが、誰と誰の絆なのでしょうか?」
「決まっておろう。妾と其方しかおらぬであろう」
「貴方と俺?」
「其方は妾の血の流れを汲む。妾の血はだいぶ薄まっておるが、子孫に力を貸すは当然ゆえな」
「失礼ですが、俺はあなたの子孫なのですか?」
「さっきから、そう言っておろう」
うちの先祖に神様がいたとは……。ん? これ不味くない?
「ご、ご尊名を拝し奉らせ候なれば、伏してお願い申し上げます」
再度、体を九十度に折り曲げ、様子を伺う。
「何を言っておる? 其方? 妾の名を知りたいのかえ? 妾は月読」
「つ、月読!?」
伊耶那岐命から産まれた三人の息子の一人だったような……息子?
「女性ですよね?」
「男に見えるかえ?」
「ですが月読命って天照大神の弟神って習いましたけど?」
「ふむ。それはな、男尊女卑なるふざけた思想のせいであろう」
そうなの? それで俺はどうなるんだ?
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