いいえ、生きてます。もう一度言います。生きてます!
「まったくもう!勘違いなら早く言ってよね!」
「いや、言ったけど聞かなかったじゃないですか…」
プクッと頬を膨らませて怒るヒイラに対し、一葉がそう返すとヒイラは何も言い返せずにプルプルと震える。
「まあ、イチヨウよ。その辺にしておいてやってくれ」
やれやれといった様子でリエルが首を振ると、部屋の中に魔法陣が出現し、発光する。
光が収まるとそこには顔立ちのよく似た2人の幼い男女が立っていた。
「初めまして!赤と暁の名を冠する魔王とその代理者の皆さん!」
ハツラツとした印象を受けるような口調で褐色肌の少女が肩まで伸ばした金髪を揺らして言う。
「僕達は魔神様に仕える6貴族が1つ【継承】の一族アルアロッド家の者」
理知的な声で褐色肌の少年が一礼する。
「私はノーティオ=アルアロッド」
「僕はオルダ=アルアロッド」
「「以後お見知り置きを」」
揃った動きで2人が一礼すると、リエルが跪き、
「それでは主の言葉を伝えます」
オルダがそう言うと羊皮紙というのだろうか、少なくとも一葉が人生で生きてきた中で見たことがないような存在感のあるものだった。おそらく羊皮紙だからというわけではないのだろう。
その証拠に先程から装備している【完全感知】のスキルが付与された指輪が羊皮紙に反応し続けている。
オルダが短く不思議な響きの言語を放ったかと思うと、羊皮紙が燃え上がりその煙が収束する。
収束した煙が晴れるとそこには、背中から無数の手を生やす鳥を模した仮面をつけた怪物が立っていた。
『全ての魔王と代理者が揃ったため、これより次期魔神選抜代理戦争を開始する。ルールは簡単、最後の1人になるまで戦う。その過程で代理者同士でチームを組むも良し、好きにして良い。勝利した魔王は魔神の地位を、代理者にはどんな望みでも叶えることを約束しよう』
そう言い終わると怪物はグズグズと溶け消える。装備している目隠し【セブンセイジ・アイズ】の能力の1つである【術式看破】によって幻覚魔法の一種であるという鑑定結果が表示された。
「それでは、私達はこれで!魔王と代理者の皆さん頑張ってくださいね!」
ノーティオが軽い調子でそう言うと、彼女達が現れた時と同様に魔法陣が生み出され発光したかと思うと、次の瞬間には彼女達の姿は掻き消えていた。
「ッはぁ…すごい魔力だったね。イチヨウ…は大丈夫そうだね」
「え?いやいや、そんなことないですよ。あまりの魔力にガクブルですよガクブル。ガクのブルです」
ヒイラは、そう返した一葉に白々しいとでも言いたげな目線を寄越す。実際、一葉は装備効果によってある程度の魔法攻撃や状態異常への耐性があるため、何も感じなかったのだがそこは師匠の顔を立ててやろうという弟子心である。
ジッと一葉の顔を見ていたヒイラだったが、何を言っても無駄だと思ったのだろう、溜息を吐く。
「取り敢えずこの2人を起こそうか」
ヒイラが親指で示したのは、あの圧力の中で未だに気絶しているテナとアルムの姿があった。
「そうですね。ほら、起きろ〜」
「むにゃむにゃ…イチヨウしゃまぁ〜、覗かなくてもすぐに脱ぎますよ〜」
「とうっ」
「…ブハッ!?」
主に自身の沽券を守るためにいかがわしい夢を見ているであろうアルムの鼻と口を抑えた。
すると、バタバタと悶えながらアルムが起き上がる。
「やあ、おはよう。」
「おはようじゃありませんよ!危うく永遠に眠るところでしたよ!」
顔を真っ赤にして怒りをあらわにするアルムをスルーして、一葉はテナの肩を揺する。
「ん…?おはようございます…」
眠そうに瞼を擦っているテナを見て、ニコリと笑うと一葉は部屋の椅子に腰掛ける。
「イチヨウ様、なんだか私の時と対応が違う気がするんですが」
「気のせいじゃない?そこのポーションメーカーでポーションでも飲んでおいでよ」
一葉が指差した先には、黒色の背景に赤い悪魔のようなマークがプリントされたドリンクバーの機械のような装置が置かれていた。
世界的に有名な激辛スナック菓子の会社とのコラボアイテムである。フレーバーテキストには『効果は抜群だが地獄の苦しみ』と書かれているので、恐らくかなり辛いのだろう。
何も考えずに飲んだアルムがのたうち回っていた。
「それで師匠。話って?」
「あ、ああ。そうだったね」
ヒイラは咳払いをすると真面目な表情を作る。
「これからのことなんだがイチヨウ、君はどうするつもりだ?」
「どうって?」
「今頃ユグナイト王家では君のことを捜索しているだろう。もちろんこのまま城に戻るという選択肢もあるが…他の魔王代理達が攻め入ってくる可能性が高い。君も感じ取っているはずだ、他の代理者の存在を」
ヒイラの言う通り、先程から一葉の脳内に意識しなければわからない程度ではあるが、複数の方向を指す感覚があった。
大まかな方向以外はわからないが、城に居ればいずれ敵が攻めてくるのは明白だろう。
「はっきり言って我々代理者達は強い。それこそ召喚された彼らでも勝ち目はないだろうな」
「でしょうね」
ヒイラのステータスが気になっていた一葉は、彼女のレベルを聞いて驚いたのだ。
なんせ、召喚された自分達の現在のレベルの50倍以上にまで達していたからだ。当然ステータスの差もあり、現時点で勝ち目は一切無かった。
そんな相手に一葉が勝てたのは、ℹ︎Oに存在するありとあらゆるスキルの知識があり、有効打になり得る一撃を確実に叩き込めたからである。
「まあ、このまま師匠と行動しますよ。守りながら戦えるほど器用ではないですから」
「君ならそう言うと思っていたよ。それじゃ、今後の方針だ」
☆
そのころ、ユグナイト王国の謁見の間では全身に包帯を巻き、ボロボロになった雄二が玉座に腰掛けていた。
その目の前には暗い顔の生徒が3人。一葉のパーティーメンバーであった中島壱花、中島双葉、志城勇輝だ。
「先生、宗賀君は?」
「…わからない。俺が目覚めた時にはイグラとフレイが倒れていた。そして、焦げた地面にこれが落ちていた」
それを見た瞬間、勇輝は目を伏せる。
それは赤く汚れ、半分燃えた一葉の生徒手帳だった。しかし、この汚れ実は朝食のスープを一葉が誤ってかけてしまい汚れ、火によって絶妙に変色した結果なのだが彼らにはわかるはずもなかった。
「嫌…嫌ぁ!」
壱花は現実を受け入れられないようで、首を横に振り崩れ落ち涙を流す。
そんな壱花の肩に双葉が手を添える。
「壱花、大丈夫。宗賀君は死んだと決まったわけじゃないよ。だから、信じよう?」
元気だが空気が読めず、周りに迷惑を掛けがちな壱花はクラスでも浮いていた。
そんな壱花の言動も一葉は、一葉だけは受け止めてくれた。結果として壱花は一葉に依存していたのだ。
肩に添えた双葉の手が小さく震える。それは、一葉の代わりに壱花を支えることのできない自分の不甲斐なさと、一葉を奪った暁の魔王に対する怒りの表れであった。
(どんな手を使ってでも宗賀君を殺め、壱花を苦しめた魔王に対して復讐してみせる。それが、せめて私に出来ることだから。)
双葉の瞳に暗い炎が宿る。
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