31, 笑顔

 コンコン。ノックの音が鳴る。


「はいはい」


 ぎぃ、というこの扉の音はずっと変わらない。木の音がして扉が開く。

「おや、クシス」

 スザンナは笑って向かえた。

「お邪魔するよ」

「どうぞ。ボードレーも、入って」

 にこっと笑って従者も迎えいれる。

「あ……お邪魔します」

 ボードレーは軽く会釈をしてスザンナの家に入った。

「丁度昼御飯を作ってたんだ。食べる?」

「おや、それはいいタイミングだった。頂くよ」

「今日は目玉焼きだからね」

「あははっ、いつもじゃないか」

「得意料理なの」

「うん。確かにスザンナの目玉焼きは美味しいよ。他では食べれない」


 二人はいつも笑顔で話をする。幸せしか彼らのもとには訪れていないかのように、朗らかで華やかな笑顔で。

 ボードレーはそんな二人を見ていつも不思議に思っていた。愛人なのか、それとも、ただの友人なのか。スザンナだけは判断に困った。



 昼食をとり、しばらく軽く話をしてからクシスが席を立った。

「じゃあ、また来るよ」

「いつでも来て頂戴」

 そして手を振って、スザンナの家を出た。


「伯爵」

「ん?」

 家を出て、馬車に向かう途中でボードレーが問いかける。

「スザンナさんって、いつも笑顔ですね」

「ん? うん。そうだね。いつも笑顔だ」

「何処で知り合ったんですか?」

「何処だったかな」

「その頃からいつも笑顔だったんですか?」

「そうだね」

 クシスは微笑んだ。

「だけど、これも一種の呪いかもしれない」

「のろい?」

「こっちの話だ。さ、帰ろう」

「はい」



 笑って。


 笑って、いつだって。

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サリーナ・マハリン なのるほどのものではありません @3hikidashi

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