21, 再会

「勝者!」


 歓声が起こる。アルブの町の広場。腕だめしだ。


「譲ちゃん強いねぇ!どこの子?」

 手を引っ張られて問われる。

「バルガン」

 息を切らしながら答える。腕だめしに挑戦して勝ったのだ。

「……あぁ! あの生粋の武民の町!」

「賞金は?」

「うんうん! ここに! さぁ受け取れ! 名前は?」

「スザンナ」

「よし! 今夜の勝者はスザンナ! スザンナ!」

 手をさらに引っ張りあげられる。もう一度大きな歓声が聞こえた。



 布を織る仕事を辞めた。ピティの護衛と、この腕だめしで金を稼ぐと決めた。剣だけで生きていく事を決めた。私は武民だから。アルブの女だから。

 もうすぐ誕生日だ。もう16になる。早い。家族が亡くなってから、もう3年も経つ。それはフェレスに会わなくなってからの期間とほぼ等しい。


 だからその人の声がして、心底びっくりした。


「スザンナ」


 信じられなくて思いっきり振り向いた。

 幻聴かと思ったのに、実際に彼はそこにいた。


「フェ、フェレス!? な……っなんでここに!」

 完全に想定外の出来事だった。夢かもしれない。

「今ピティにいるんだ。だから、腕試しでもと誘われて」

「ど……どこから?」

「あの塔。あの塔は貴族たちの腕だめし見物スポットなんだ」

「へ、へえ……」


 フェレスが本当に此処にいると実感すると、思わず顔を背けてしまった。顔は笑ったまま、嫌な汗が出てる。どうしようもない。隠す術がないんだから。泥だらけの姿を。


「久しぶりだな」

「うん。久しぶり」

「こっち向けよ」


 どきっとした。フェレスの声。こんなんだっけ?強い声だった。

 言われた通りにフェレスのほうを見た。


「ごめん」

「なにが?」

「ごめん。会いに行くって言って、結局……全然、会いにいけなかったこと」

「……あぁ。そんなことか。気にしてない。俺も会いにこれなかった」


 どうしよう。真っ直ぐ見れない。理由はよくわからないが。ちょっと無理だ。


「あ」

 話題を思いつく。

「成人、おめでとう」

「知ってたのか?」

「あ、うん。皆が噂してて。そんで……」

「それで?」

「……行ったんだけど」

「サリーナ・マハリンに?」

「う、うん」

「なんで訪ねなかった」

「だって……っ!」


 そんなの。そんなの無理に決まってるだろ。


「あ……。そ、そう言えばさ」

 言いかけた時、フェレスはいつものように私の手をすくい取っていた。

「やめ……!」


 それを引き抜こうとしたが、彼は手を離さなかった。まるで私が拒絶することを分かっていたかのように、初めから強い力で掴んでいた。


「来て」

「何処に!」

「ピティ。せっかく会えたんだ。一緒に食事をしよう」

「ちょっと待て!」

「なんでだ?」

「私がピティに行けるわけないだろっ」

「俺がいるだろう」

「そういうんじゃないよ!」

「じゃあなに」

「なにって……。あ、あのさ」

 俯く。顔が見れない。

「うん」

「……結婚、したのか?」

「何の話だ?」

 フェレスはじっと私を見た。

「……してないの?」

「どこから聞いた話だ。俺は未婚だよ」

「だって、いっぱい貴族の家が……」

「してない」

「……あ、そうなんだ」


 てっきり、成人してすぐに誰かと婚約したんだと思い込んでいた。

 結婚相手に贈るはずの、成人の証の指輪をつけていなかったし。


「笑ったな」

「は?」

「やっと笑ったな。行くぞ」

「だ……、待ってってば! だって、私、こんな泥だらけ……」

「服くらい見立ててやる。早くしてくれ。結構腹が減ってるんだ」


 ああ……、いつものフェレスだ。口元が緩んでしまった。

 変わってない。変わってない。笑わない彼は相変わらず微笑みすらしない。だけどなんにも変わってなかった。

 どこか凍っていた心の奥が、コロンと音を立てた。そしてじわじわと溶けていくのを感じていた。

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