15, バルガン

 フェレスは気高い人だった。


 誇りに対して潔癖で、自分に対して厳しく、自分の道をずっと見ていた人だった。

 微笑んだりしない。安く笑みを見せたりしない。笑わない理由はわからなかったけど、きっと彼のあの芯が、彼のこころが、彼をそうさせていたんだろう。

 彼と一緒にいると気持ちよくて、心地よかった。その優しさが、その気高さが、清々しかった。


 大事な人だった。量れないほど。



「此処か?」

 青年が馬車から地上に降りたって呟いた。辺りを見渡す。草が茂っている。空気がひんやりとする。北の風だ。

「此処であってるのか?」

 顔を上げて再び問うと、御者の男は頷いた。

「確かですよ。人に訊きましたので」

「…………。だが、これじゃあ……」

 歩きだした。

「あっ、何処へ?」

「すぐに戻る。馬を見といてくれ」

 男は止めようとしたが、青年は止まらなかった。

 辺りを注意深く見渡す。空を見上げる。気持ちいい色の空が見える。


「何か御用ですか?」


 振り向く。後ろから女の声がしたからだ。

「ここはバルガンだと思ったんだが……」

「あなたのような高貴なお方が何の用ですか」

「……人を探してる」

「ここはもうバルガンじゃありません」

「なに?」

 顔をしかめる。

「2ヶ月前の伝染病で、殆んどが死にました。国が村閉めを行って、もう殆んどバルガンの武民は残っちゃいません。早くここを去りなさい」

「村閉め……」


 辺りをもう一度見渡す。

 そうか、だからこの有様なんだ。

 はっきり理解する。


 そこには村と呼べるものはなかった。争った傷跡が見える。焼き払われた建物がいくつも見える。この土の黒さは、そのせいだ。地図から、無理矢理消されたそのせいだ。

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