14, 別れ

 もう夜も深まり、そろそろ行こうかと壁に掛けられた時計を見ていたら、フェレスに声をかけられた。


「泊まらないのか?」


 振り向く。

「此処に?」

 フェレスは頷く。

「なに? おおっぴらに誘ってる?」

「違う」

 あはは、と笑うが、フェレスは冗談にも笑ってくれない。

「いいよ。そこらへんで寝る」

「……体冷やすなよ。最近は霧が出る」

「うん。大丈夫。っていうか、ありがとうな。こんなに旅費」

 お礼の旅費は子供が持つにはかなりの大金だった

「あぁ。この金で宿とって寝ろ」

「うん。気が向いたら宿で寝るよ。月経痛が結構痛い時あるんだ。そういう時は宿のほうがいいからな」

「…………そういうことは、軽々しく口にするなよ」

「なんで」

「……いい」

 なんか呆れられた。

「じゃ。いくな。また、会おう。フェレス」

「……あぁ」

 笑った。もちろん、笑い返してくれることは期待してない。

 だから手を差し出した。いい匂いのする石鹸で洗ったからもう血の匂いとかしないし。

 フェレスは温かい掌で差し出した手をすくい取ってくれた。そして、こっちをじっと見て言う。


「ありがとう、スザンナ。絶対に、薬。持って行ってやる」

「……うんっ。待ってる。待ってるよフェレス」


 ぎゅっと彼の掌をもう一度強く握り閉めて、するりと指を解いた。その手を振って背をむけ、私は真っ直ぐこの大きな建物から出た。

 その日の空は、満天だった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る