第1話 4

 チャイムが鳴ると共に職員室を出て、担任の後に続きながら二年一組を目指す。

 道中トイレやら更衣室やらの案内と説明をざっくりと受けた。

 オレは聞き流しながらも、人の集まりそうなところ、いざというときの逃げ道なんかを把握しておく。

 担任が教室の戸を開けると、喧騒が凪いでいった。

「廊下までうるさかったぞ。新しいクラスは思いやられるな」

「それより、転校生が来るって聞いたけど?」

 やれやれ、とした態度の担任に噛み付くように、その声は響いてきた。

「話が早いな。入っていいぞ」

 廊下から、教室へ。縛り付けられるかのような視線の中、オレ達三人は黒板前の壇上に立った。教室の生徒たちみんな、髪と瞳の色がカラフルで、日本人離れしていて、ここが鬼ヶ島なのだと改めて確認させられる。

「三人とも島の外から転入してきたんだ、仲良くしてやってくれ」

犬飼いぬかい 千和ちわです」

楽々ささ エンジです」

 無難に挨拶が進み、お姫さんが一歩前へ出た。視線が一点に集まる。

 自分が挨拶するより緊張してきたんだけど。

「どうもはじめまして、桃太郎の子孫の桃子です」

 教室中が騒然としだす。ああ、誰かこの子の口封じてくれないかなぁ!!

「桃太郎の子孫だあ?」

 さっきも担任に噛み付いていた声だ。

 教室の後ろ側。ふんぞり返って座っている大柄の男が、下卑た笑みを浮かべている。島に住む鬼達の重鎮とも言える、鬼藤きとう家の若さんだ。

 ――げ。やっかいなのに目をつけられたな。

「鬼退治にでも来たのかよ」

「ええ、そうよ」

 間髪入れずに、お姫さんがそう返す。

 しかし、いつの間にこんな減らず口憶えたんだろうな。桃之助が聞いたらひっくり返るんじゃねぇかな。

「ど、どうしよう、エンジくん」

 犬がオレの袖を引いて、耳打ちしてきた。

 いやもう、どうしようもないよね。逆に全校生徒敵に回しちゃったら、桃之助が出てきて強制的に帰れるかもしれないけどさ。

 睨み合う二人の間から緊迫感が漂う。オレも犬も神経を研ぎ澄ませて臨戦態勢に入ると、担任が手で、ぱんと弾けるような音を打った。

「次の時間のことだ。全校集会になっているから、速やかに体育館へ移動するように。日直も委員長も決まってないから、とりあえず雑用は元気そうな鬼藤に任す」

「はあ!? なんでオレが!!」

 だいぶ大きな批難の声をよそに、担任が淡々と話を進めていく。

 生徒の意識がお姫さんから逸れて、やっと息が抜けた。

 ――正直、毎日この緊張感があるのかと思うとぞっとする。


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