第1話 5


 全校集会と言っても校長の挨拶と注意事項くらいなもので、あっさり終わってしまった。

 とくに目新しいことがないってことなのかもしれない。

 他の学年の生徒達から教室へと戻っていくなか、担任が残るように言ったため、うちのクラスだけ座ったまま待機する。

 お姫さんは犬とノンキに話していて、オレは退屈さに欠伸を噛み殺した。

 クラスの列の一番後ろのほうに座っていたから、今のうちに少しだけ気を緩めていた。

 ぐっと背を伸ばすと気持ちいい。今日は半日だし、あと少しだな。

 チャイムが鳴って辺りが静かになると、担任は組んでいた腕を解いた。

「さて、ドッジボールをしようと思う」

 ――え?

 いやいやいや、藪から棒にも程があるだろ。と、担任の発言が読めないのはオレだけじゃなかったようで、周囲もざわめく。

「勝者にクラス委員を任せる」

 さすがにこれには反発の声が沸く。だよねぇ、とオレも肯いた。

「ドッジボールでって……ガキじゃねえんだぞ」

 鬼藤による大人も顔負けの、凄みのある睨みもどこ吹く風で、担任は体育館の隅に転がったボールを手にした。

「今のお前たちは、表面で見すぎていると思う。結論はもとより話し合いに至るまでに時間がかかりそうだ」

 くるくる、担任の手の内で回るボール。

「鬼と人間が争った過去は確かに存在する。けれど、だ」

 ボールは担任の手元から、ふわりと飛ぶように投げられると、お姫さんの手元へと落ちてきた。

「個人的な恨みならまだしも、先祖の恨みを遠い過去から拾い集めて、あたかも自身の傷のように背負ってまで正義面するのはどうかと思ってな。――桃子、立候補する予定は?」

 お姫さんは手元のボールと、担任の顔を見比べる。

 辞めとけばいいものを、もう彼女の表情を見て察した。こりゃ説得は無理だ。

「やる」

「人間が委員長だと。ふざけるな」

 阻止しようと立ち上がったのは、目を血走らせた鬼藤だった。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る