第1話 2

 お姫さんの来る一週間前。三学期の終業式を迎えるなり、オレ達三人はこの島に来た。

 別荘は清掃業者が入っていたおかげで掃除の必要はなく、荷物の仕分けを終えるなりすぐに仕事を始めた。

 まず別荘の敷地内に危険物がないかから始まり、近所に挨拶がてらどんな人物が住んでいるか調査。

 そして、学校。とにかく鬼達と関わらなければならない場所は綿密に。

 オレとキジは寝る間も惜しんで駆け回り、お姫さんの安全確保のために勤しんだ。これもお姫さん、延いては桃之助のためだ。


 ドアを開けたお姫さんに犬が突進――ではなく、抱きついた。

「桃子ちゃぁん!」

「わわ、びっくりした」

 女子同士のこういうスキンシップはなかなか癒される。おまけに小柄な犬が、お姫さんの豊満な胸にその顔を埋める形になって――ごほん。それはさておき。

「ほらほら、早く中に入ってくださいよ」

 二人の背を押して、やっと玄関を潜れた。

「そうだ、桃子ちゃんお腹空いてると思ってご飯作ったの!」

 犬が笑いかけると、さっきまで仏頂面だったお姫さんもやっとすこしは笑顔になった。

「嬉しい、ありがとう。千和のご飯美味しいから好きよ」

 別荘は二階建てで、リビングダイニングの他に部屋が五つある。一階の一部屋をキジが、あとは部屋が決まってるお姫さん以外は、二階の部屋をそれぞれ選んだ形だ。

 お姫さんは二階の自室へ行くと、着替えとドラッグストアの袋を持って降りてきた。

「ご飯食べたらお風呂入るから」

 覗かないでよね、と真っ赤になりながら彼女はオレを睨みつけた。

 言われなくても覗きませんとも。君のお兄さんの凶刃が恐ろしくて、とてもとても。

 そして犬の作った、やたら和洋折衷の豪勢な夕食が終わって、お姫さんは予告通りお風呂へ入った。

 さすがに温泉ではないものの、広く作られた湯船は、大人が横に二人、足を伸ばして入れるほどだ。

 のんびりしているのだろうと思っていたが……それにしても、もう二時間半を超えている。

 女子ってこんなに長風呂なもんなの?

 犬を向かわせようと振り向くと、彼女は首を振った。

「さっきからにおいがするの。もしかしたら、桃子ちゃん髪を染めてるんだと思うんだけど――あ、桃子ちゃん遅かった……ね」

 犬が目を点にして、固まっている。オレも視線を辿って振り向くと――

「なによ」

 タオルから覗く髪の色が、漆黒から鮮やかな金色になっていた。

 ――ちょ……え…………うっそだろおおぉ!!

 鈍く光る凶刃を片手に迫ってくる桃之助の幻影が見える。

「なんで!! なにがあったわけ!?」

「エンジ、うるさい」

 つん、と顔を背けたお姫さんにオレは深く深くため息をついた。


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