【4】



 もう一度息を吸い、大きく開いた人魚姫の唇からは、歌声が聴こえてきた。

 高く、澄んだ音が、低い声が、海の空気を震わす。


 ただ歌っているだけの姿。



 その姿を見た密漁者たちは、なぜかその場から動く事が出来なかった。



 人魚姫の歌声が海の上に、人魚たちの棲家に結界を造っているのだ。



 人魚の王族は誇り高き種族であり、海の守護者。



 人魚の生活を脅かす者たちは例え人間の王族であろうが、何者でも容赦しない。


「去りなさい、人間達よ。ここは静かなる海。塩が守る海。わたくしは王女にしてこの海の守護者! 何者にも海の平和は侵させやしない」




 歌いながら鋭い瞳で人間達を睨みつけると、震え上がった人間は何を恐れているのか理解出来ぬまま、船で帰っていった。




(良かった……………無事に海を護る事が出来たわ)







 再び静かになった海上に、人魚たちが顔を出している。




「姫さま、我らを守ってくれてありがとうございます」





 それらの“声”に、人魚姫はニッコリと可愛らしい笑みを浮かべた。

 誇り高い笑顔は、きっとこれからももたらされるであろう。




 海の守護者は力強い瞳で前を見据えている。



 明日も、海の平和は彼女の前に。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る