エピローグ2
数週間後、“彼”は家族と直接再会することもなく、書き上げた論文を大きな旅行鞄へしまい込み、空港へ入る。
“ブラジル行き”と表示された掲示板を、怯えた眼で確かめる。パスポートを出そうとして手帳を落としてしまった。あわてて拾う。広いロビーを雑踏の中、転びそうな歩調で通りぬけた。
大海の晴れた上空を旅客機が飛ぶ。客室の窓際で彼は、外の景色を遠くに見つめる。
手荷物から一冊の本を取り出した。それは日系アメリカ人の理論物理学者が著したもので、未来世界をとく内容だった。拾い読みするようにあちこちのページをひらき、少したつと本を閉じた。
また窓の外を眺める。海と雲しか見えない景色となっていたが、彼の脳裏には旅立つ前のさ迷い見た光景が浮かぶ。
“彼”はつぶやいた。
「……この国は、すでに死んでいる……」
ー了ー
残り陽 私掠船柊 @violet-planet
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