エピローグ1
声を届けることがかなわずに米兵二人を見送ったサヤは、お菓子をすべて隣に立つアカリへ手渡した。アカリは不思議に見つめ返す。
「お腹すいてないの?」
不安の視線の先でサヤは頭を左右にふった。
「ううん、わたしは食べなくても動けるし。全部あげるね」
「あ? うん、でも……」
「少しずつ食べなよ」
「サヤちゃんは、すっごーいよね。この子と違って歩いたり、おしゃべりできるんだもん。あたしもできたら、サヤちゃんのような……」
「シーーッ! 誰かに聞かれちゃうよ。そんな顔しないで、大丈夫。ずっと一緒にいるから」
ワンピースの友達は、緊張から解放された感激のあまり、もっと話そうとしたがる。が、着るものにベレー帽を加えることになった少女は、なんとか止めることができた。
やや強い風が語り掛けるように吹きつけてきた。
木々の柔らかい小枝はしなり、葉のすれる音が、人間には、まねることができない旋律のように広場へ広がる。そして、心の有り様も、まだそこにいる大人たちには理解するすべはなかった。
老いたイチョウの木から扇形の葉が、いくつも落ちていく。
黄色になりかけの一枚が、風にのり、揺らめきながら落ちてゆき、アカリの小さな肩にとまった。
サヤはポケットからハンカチを一枚取り出した。
アカリにとまる扇形をそっとつかまえると、涙を少し含ませている、開いたさくら色の上に乗せ、ハンカチで包み、丁寧に折りたたむ。
「……これは……わたしの作ったお守りだよ……」
そしてアカリの細やかな手に渡そうとする。
受けとるにも、アカリはぬいぐるみとお菓子で手がいっぱい。どうしようかと、眉じりを下げた。
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