第21話
「いってきまーす」
成美を先頭に、次々とみんなリビングから玄関へと移動し始めた。
玄関を出ても、この世界に6人の職場も学校もないのに、何処へ行くというのだろう。それに、玄関を出ると消えてしまうではないか。
「はいはい。いってらっしゃい。アリサちゃんもひとりで行けるわよね」
と言いながら、美佐子もみんなの後ろに続いて玄関へと行く。いったいどうなるのか、見たいような見たくないような思いが交差したが、わからないと後でイライラするだけなので、見ておこうと思い、わたしも玄関へ向かった。
スッ
スッ
スッ
ひとりひとり、玄関のポーチのところで消えていった。
「さぁ、みんな出かけたわね。あら、優子さんも居たの?今からパン食べるでしょ、ちょっと待ってね」
美佐子は消えないようだ。美佐子は主婦だからだろうか。それなら自分の家に居ればいいのではないのか。それに、この家の家政婦ではないのだから、わたしのパンの心配までしなくても良いのにと思った。
「あぁ、いいよいいよ、自分でやるから」
安い食パンを焼かれても食べられない。わたしはそう思って、慌てて美佐子を止めた。
リビングへ戻ると、ソファーにまだサリーが座ったまま居た。
「あれ?サリーちゃんは学校にまだ行かなくていいの?」
高校生の頃は、何時に家を出ていたのか忘れてしまった。そんなにゆっくりしてられたのか。
「俺は今、停学中の身だ」
「はぁぁ?なんで停学とかになるのよ!真面目なわたしが」
「優子ママ忘れたのか?高2のときに、男と駆け落ちゴッコして、学校にバレて停学になっただろうが」
思い出した。学校帰りに彼氏のアパートへ行っていたことが父にバレて、反対され、ものすごく怒られて、次の日わたしは家出をしたのだ。
わたしがなかなか戻らないので、学校に親が連絡してしまった。わたしの友達が、彼氏のアパートを学校や親に話し、わたしは連れ戻されたのだ。そして停学2週間をくらってしまった。
「じゃあサリーちゃんは、高2の頃のわたしなの?」
「今んとこそうみたいだな。なんであんな変な男と駆け落ちゴッコなんかしたんだよ。趣味悪いぜまったく」
(今んとこ?)
「そんなこと言ったって。そのときは好きだったんだから。サリーも同じだったんじゃないの?」
めんどくさいので、ちゃん付けをやめることにした。
「俺?気持ち悪いこと言うなよ。男なんか好きにならねぇよ俺は」
「ええっ?」
「勘違いするな。そういう意味じゃない」
話せば話すほど、わけがわからなくなるので、朝ごはんを食べることにした。
「あらっ?」
冷凍室の一番下の方に入れておいた(隠しておいた) パン屋さんの食パンがない。
「優子さんどうしたの?食パンもうなくなっちゃった?」
「ううん。あることはあるんだけど、一番下に古いのを入れておいたから、それを先に食べようと思ったんだけど、ないのよね」
一番美味しいパンとは口が裂けても言えない。
「あぁ、食パンのことはサリーちゃんが、たくさんあるから食べるようにって、優子さんが言ってたって言って、冷凍室から出してくれたのよ。1種類違うのがあったけどそれのこと?サリーちゃんが、これが一番美味しいからって、みんなで1枚づつ食べたのよ。5枚あったから子供たちと成美さんが食べたのよ」
「優子ママ、他の食パン、超〜マズイから、全部あの食パンにしてくれよ明日からは」
サリーの奴め。子供の頃から、商店街にあったパン屋さんの食パンを食べてきたから、流石にみんな舌が肥えているようだ。
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