第13話


「あっ‼︎」


 またしても、マンションの駐車場に車を停めた途端、声が出てしまった。6人分の下着類とTシャツを買っているときは、6人の自分のものということしか頭になく、年令のことをまったく考えていなかったことに気づいた。


 眞帆とサリーと成美と美佐子は大人用でいいと思うが、桃子とアリサの分は、子供用を買わなければいけなかったのだ。わたしはまた車を動かして、もう一度ディスカウントストアへ向かった。


 ディスカウントストアも、大型ショッピングセンター並みの商品が揃っており、子供用の衣料品も、もちろんある。5才のアリサと小学生の桃子の衣類を探していて気づいたのは、アリサは5才とわかっているが、桃子は小学生だと言っていたが、何年生なのかはわからないということだ。


 そして、衣類や下着を見ていても、110•120•130などと、数字があるだけで何才用とは表示されてはいない。


 店員に聞くこともできるが、桃子の年令がわからないので、聞きようがないのである。途方に暮れながらも、仕方がないので、数字は身長のことらしいので、だいたいの身長を予想して買うことにした。


 衣類をいろいろ見ていると、可愛いワンピースなどもあり、アリサや桃子に着せてあげると可愛いだろうなと思った。それは母親のような気持ちというよりは、着せ替え人形の洋服を選んでいるときの気分の方が近い。


 ようやく、マンションの玄関に辿り着き、ドアを開けると、カレーのいい香りがプーンとしてきた。カレーは母が亡くなってから一度も作っていなかった。わたしも母も、辛いものが苦手なのでルーは甘口だ。


「おかえり。カレーのルー、賞味期限ギリギリだったわ〜。最近作ってないの?お母さんもよく作ってたと思うのに。旅行中だから?じゃあ、もうすぐ帰ってくるのかなお母さんたち」


「いや、旅行はまだまだ終わらないから。ルーはえっと他のルーを試したからかもしれない……」


 リビングへ行くと、美佐子が待ち構えていたかのように聞いてきた。ギクリとした。そういう細かいところで父や母が亡くなっていることがわかってしまうのではないか。もういっそのこと、全部話してしまおうかとも考えた。隠し通すのは疲れてしまう。


「空飛ぶ車のくせに遅かったな〜。それよりレコードどこにあんの?優子ママの部屋で音楽聴きたかったのに、ラジカセしかないじゃん。矢沢永吉とかクールスのレコードどこやった?というかステレオどこやった?捨てたのか?」


 サリーが横から口をはさんだので、父や母の話から逃げられて助かった。レコード……。今はCDに変わったので、部屋にあるのはCDラジカセなのだが、説明してもわからないだろう。それに今は永ちゃんの曲は聴いていない。


「ロックがいいの?永ちゃんのはないけど他のならあるわよ」


 車の中でも聴いている曲のことだが、あれならサリー好みの曲のはずだ。ボーカルは、ある大物歌手の子供なので、そのことを話せば、さぞかしビックリしますることだろう。サリーもだが、その大物歌手が活躍した時代は、桃子や眞帆がいる時代だ。


 部屋へ行き、ロックバンドの曲を流す。


「うん。まあまあだな」


「レコードはもうなくなって、今はこのCDに変わったのよ。他にもいろいろあるから、勝手に聴いていいから。わたしはシーツとか出したりすることがまだ残ってるから」


「ずうとるびとかフィンガーファイブとかベイ•シティー•ローラーズとかも捨てちゃったの?」


 いつの間にか、眞帆と桃子も部屋に入ってきていた。半泣きで聞いてきたのは桃子だった。


「あぁ〜ごめんね。捨てたわけじゃないんだけど、引っ越しして行方不明になっちゃったし……え〜っとね桃子ちゃん、CDも売ってるはずだから今度買ってくるね」


 リビングのテレビから「山田く〜ん。座布団全部持ってちゃいなさい!」という声が聞こえてきた。


 ずうとるびのメンバーのひとりが、今は笑点の座布団運びだと知れば、桃子が更に泣き出すのではないかとハラハラした。山田くんのファンではなく江藤くんのファンだったのだけれど、観せてはいけないような気がした。


 SNSで、江藤くんから友達承認してもらってることや、バロムワンの主人公も友達承認してもらい、メッセージで返事ももらっていることを桃子に話したくてたまらなくなったが、やめておいた方がいいだろう。



 アイドルは遠い遠い存在なのだから。夢を壊してはいけない。今は今の活躍をしていて、それを応援もしているが、過去のわたしがそれを知らなくてもいいことなのだ。



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