第11話


「あーーーーーー!」


 エレベーターで1階に下り、駐車場の自分の車に乗り込み、エンジンをかけたところで、ある大事なことに気づき大声が出てしまった。


 それは、6人が寝る為の布団のことだ。部屋は4部屋、いや兄の部屋は使わない方がいい。3部屋あれば寝る場所は足りるだろう。布団も、もう暑いのでタオルケットや肌布団なら家にたくさんある。


 だけど、父と母の部屋にダブルベッドと、わたしの部屋にセミダブルベッドがあるものの、あとは敷布団を出さなければ足りない。お客さん用の敷布団が、和室の押入れにあるが、それを日に干さなければいけなかったのだ。


 いつもは母がしていたので、わたしはそういうところに気が回らない。


 エンジンを止め、キーを抜くとロックはせずに、又エレベーターへと走る。エントランスを通るときに、管理人が何事かと、管理人室から目を丸くして見ているのがわかった。コーラを買いに出たときは、清掃中の札がかかっていて、姿がなかったが、掃除が終わったのだろう。


 管理人は常駐ではなく、通勤で夕方の4時には帰ってしまうので、そろそろ帰る時間だ。


「ちょっ、ちょっと誰か手伝って〜」


 わたしは玄関で、スニーカーを脱ぎ捨てると、バタバタとリビングまで走りながら、叫ぶような声を出した。


「優子ママ帰るのはえー。飛行機で行ってきたのか?あっ、やっぱり空飛ぶ車があるんだ。見たかったな〜窓から見れば良かったのか。他に飛んでる車ないかな〜」


 サリーは使えない。そう判断したわたしは、成美に狙いを定めた。成美は、美佐子を手伝いキッチンにいた。


「成美ちゃんお願い。布団干すの手伝って」


「布団?」


「そう。あなたたちが寝る為の布団、干さなきゃ」


 わたしは、和室の押入れを開けて、敷布団を2枚取り出した。結構重い。母が亡くなってからは、誰もここには泊まりに来ていない。湿気で布団が重くなっているのだ。


 押入れの中の湿気を取る為に、母が湿気取るぞうとかいう名の湿気取りを入れていたが、もう水は満杯になっていた。これも取り替えなければならなかったのに、わたしは押入れの中を見ていなかった。


「成美ちゃん、ベランダの窓開けて」


 重い敷布団をひとつ抱えて、成美に声をかける。成美はソファーがない方の窓を開けた。


「先にベランダに出て、この布団半分持ってくれる?草履そこにあるから」


「うん」


 成美は返事をすると、草履を履く為にベランダに出た。その途端、成美が消えた。


「あっ!!」


「わぁ!!」


「あ〜あ」


 その光景を見ていたものが、それぞれ声を出していた。


「わぁ、ビックリした」


 そう言いながら、成美はリビングに戻ってきた。わたしは唖然とした。重い敷布団を一旦床に置いて、窓に立てかけた。


 リビングも外になるのか。確かにリビングは共用部分であり、専有部分とは違う。本当にこの6人は、部屋の中だけの存在なのだ。


 どうすればいいのだろうか。いっそのこと6人をベランダに出して、鍵をかけてしまえば過去に戻ってくれるのではないか。などと悪い考えが浮かぶ。だけど過去に戻れなかったら……。それにわたしにそんなことができるわけがない。


 この重くなった布団。ファブリーズするだけでは誤魔化せないだろう。布団クリーナーもあるが、それも頼りない。湿気を吸うだけ吸った布団なのだから。


 また回らない頭をクルクル回した。ピンチはチャンスだ。なんのチャンスだかわからないし、いま使う言葉ではないような気もする。だけど、わたしは思い出した。布団乾燥機の存在を。あれなら短時間で、ふっくら乾燥できるではないか。


 わたしは、押入れから布団乾燥機と布団クリーナーを取り出した。


「成美ちゃん、布団乾燥機使ったことあるよね。これで敷布団2枚やっといて。サリーちゃんと眞帆ちゃんは、布団クリーナーで、お母さんたちの部屋とわたしの部屋のベッドに、これかけといて」


「何これ?ハンディー掃除機?」


「そうそう。布団専用のね。その後はベッドに敷いてある敷きパッドにファブリーズ、えっとこれシュッシュしておいてね。それから、先にそのポテトチップスでベタベタになった手を洗って」


「それから美佐子さん、ご飯も炊いておいてくれる?お米ここにあるから」


 わたしは、食器棚の一番下の左の扉を開けて米びつを見せると、またバタンと扉を閉めた。

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