魔法『少女』だった頃④ 〜マスコミと犯罪〜

 ずずずずずず。


 ある年の夏休み。オープン前のバーで素麺を啜りながら並んでテレビを見るあたし達魔法少女は、ただ黙って今後の活動を悩まされていた。


「おじちゃんおかわり!」

「はいはい、たんとお食べ」


 お気楽な佳珠と優しいマスターのやり取りを無視して、ニュースに取り上げられているフリフリスカートの身内から目が離せずにいた。


『そうなんですよ! 今まで噂だけで一切映像として残す事が出来なかった例の魔法少女達、通称【リトル☆ホープ】をついに記録に残す事が出来たのです!』


 キャスターの横で興奮する評論家は恥ずかしげもなくあたし達の映像を指さして何やら考察を進めていた。その様子に箸を止め、謝罪の言葉を漏らす一人の女の子。


「ごめんなさいねぇ……」

「や、これは仕方ねぇよな」


 今回の現況は真弓である。

 あたし達はずっと魔法少女であることをひた隠しにしてきた。これまで大規模な交戦も何度かあったけど、バレなかったのはただの運と、『魔法少女』という現実味のないワードのお陰だ。きっと世に知られるのは時間の問題だったのだ。

 きっかけは真弓を戦闘に参加させたこと。彼女は魔法少女になって日も浅く、雑魚悪魔との戦いにかなりの時間を掛けてしまった。極めつけは、マスコミから逃げる時に真弓がまだ空を飛べないことを全員が失念していて離脱が遅れてしまったことだ。結局あたし、真弓、七海が顔を晒す事になってしまった。


「いつかはバレる事だもの。真弓のせいじゃないから気にしないで」

「で、でもぉ……」

「一応、この為の考えも無くはない。私が何とかしてみるから、みんなはいつも通り魔法の練習とかしててよ。だんだん悪魔も強くなってるんだから気を抜かないように」


 始めの頃より随分貫禄が出てきた七海は、カウンターに麺つゆが入った器を置いて「ごちそうさま」と言うと、一人で外へ出ていこうとする。


「おい七海、お前は今日の練習来ないのか?」

「しばらく行けないと思う。でも、全部終わったら合流するから安心して」

「別にお前が一人で背負い込む必要ねぇだろ。あたし達に何か出来るなら……」

「ごめんね、一人じゃないとやりにくいの。あなた達はしばらく真弓の訓練を見てあげて。陣形の見直しや連携魔法はあたしが帰ってからにするから、個人練もサボるんじゃないわよ?」

「…………わかった」

「ま、悪い状況にはしないわよ。これでもリーダーだからね」


 頼り甲斐のある笑みを残すと、七海はどこかへ行ってしまった。まだ素麺を啜っているあたし達は、顔を見合わせて自分に出来ることをする。


「「「「おかわり」」」」

「はいはい、まだまだありますよ」


 腹ごしらえは大事だ。






 それから一週間。

 出来るだけ人目に触れないよう尽くしながら無人島を使って魔法の訓練に勤しんでいたあたし達は、タイミング良くそれぞれが大きな成長を掴むことに成功していた。


「ふぅ、あかりの【ゲート】って馴れないわね。変なとこに飛ばされちゃいそう」

「そうか? なら優香だけ飛んでこいよ」

「戦闘でも使うでしょうし馴れとかないといけないのよ。不本意だけどね!」


 睨み合うあたしと優香。

 最近ようやくゲートを使いこなせるようになったあたしは、スリルドライブを含め移動手段として確立した立ち位置を築いていた。

 そして優香は、時を止める魔法を数秒まで延ばすことが出来るようになり格段に戦闘力を上げる。さらに攻撃力の高い新魔法まで覚えて手が付けられない所に来ていたのだ。


「見て! 見てよ地走ぃ、優香ぁ!」

「おぉ!」

「すごい!」


 珍しく歓喜の声を上げる真弓は、なんと空を飛んでいた。いつかの事件で悪魔から無理矢理持たされた魔力。魔力コアがあるのかもわからない真弓は戦力になるのかすら不安なところがあったけど、こうして空を飛べるまで使いこなしている。彼女は一歩ずつ魔法少女へと成長しているのだ。

 真弓に付きっきりで唯一大きな進歩もないみくりだけど、本人は誰よりも嬉しそうな顔をしていた。彼女の特殊能力的に満たされ過ぎるのは良くないけど、そんな事はどうでもいいのだろう。強力だけど、誰が考えても酷い能力だからな。


「真弓! 今ならもしかしたら攻撃魔法出来るんじゃねぇか!?」

「ふふっ、闇の攻撃魔法なんてえげつなさそうね。今にあなた達より強くなってみせるわよ♪」

「まゆ! 私と戦おうよ!」

「……優香とはまだ早いわよぉ」


 みんなの成長はみんなのために。真弓の成長を噛み締めながら、全員で真弓の攻撃魔法について色んなことを試した。結局出来上がったのは目隠し程度の闇魔法だったが、真弓の潜在能力はまだまだ隠された部分が多い。これからどう活躍するのか非常に楽しみだった。

 そうこうして休憩の時間を取っていると、目の前の海が急にせり上がって来た。何事かとみんなで武器を構えて相手を見据えると、そこから出てきたのは我らがリーダー七海であった。


「なんだ七海かよ。変な登場すんなよ紛らわしい」

「仕方ないでしょ。日が高いんだから空から来られなかったのよ。それに海の中の方が速く動けるし」

「そっか、【霊宝アトランティス】の能力そんな感じだったな。潜水艦みたいな奴だ」


 七海の神器は水の中で自由に行動出来る。どんな深さでもどんな距離でも関係ない。しかも魔力回復速度も上がるから実質海では負け無しの神器だ。

 そんな魚女が突然現れたのはもちろん例のテレビの件だろう。しばらく顔を見せていなかったけど進展があったのかもしれない。


「で、どうなったんだ?」

「完璧ね。自分の才能が怖いわ」


 七海にしては珍しい完全勝利宣言。これは期待できる。


「七海……お姉ちゃんどうなる?」

「安心してみくり。真弓だけじゃなく私達全員の個人情報が保証されたわ。その代わり活動報告を私がするって感じでね」

「…………良かった」

「それに、これは自由だけど活動資金を援助してくれるってさ。実際世界を守ってるんだから政府の活動として認められるわけ」

「……政府?」


 なんだか雲行きが怪しくなる言葉が出てきた。なんでテレビの話で政府が絡んでくるんだ?


「七海、お前……」

「実は、総理大臣の所へ忍び込んで来たの」

「「「はぁあああ!?!?」」」

「テレビ局っていっぱいあるし一番上を抑えた方が早いと思って。『これ以上邪魔をするなら悪魔との交戦をしません』って言ったら心良く味方してくれたわ」


 この女、笑顔で何言ってんだ?

 日本のトップの家に忍び込むだけで重罪なのに脅してくるなんて命知らずにも程がある。いや、いつも命懸けではあるけど常識まで吹き飛んでしまったのか?


「ま、仲間の為ならこれくらいするわよ」

「これくらいって……はぁ」


 なんと心強いリーダーだこと。

 とりあえず、この密やかに行われた大犯罪によってあたし達の生活は守られることになった。あたし達が七海に一目置くようになったのはこの日からだというのはもはや言うまでもないだろう。

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