第十三話 サボってないから。決して・・・・・

 あたしが戦線を離れてどれくらい経ったかというと……実は夏から秋になるくらいには全く戦闘をしていなかった。

 もちろんサボっていた訳ではない。ちゃんと自主トレもしてたし(たまーに)、これからの作戦も練っていた(たまーに)。

 だって仕方ないのだ。これから大規模な交戦があるかもしれないと思うと、まず家族との時間を優先してしまう。いや、しないといけないと思うんだ。あたしだって人の子だし惜しむものもある。魔界の王と戦うことになれば生きて帰れるかも怪しいんだから。


「それが言い訳?」

「なかなか理にかなってるだろ」

「まぁ、責めはしないけどさ……」


 七海は大きな溜息をついて膝を抱えた。この溜息はたぶん、『お前は幸せそうでいいよな』の溜息だろう。前の男を随分引きずっているのか今だに顔に出ている。

 結局、ずっと七海が新米達……いや、もう新米と言うには違和感を感じるほど力を付けてきた愛達の面倒を見ていてくれた。倒した悪魔の種類や強さなど逐一伝えてくれる小まめな七海は、知らない間に立派な師匠になってしまったらしい。子供の頃の一人で頑張る彼女からは想像出来ないものだ。


「それにしても遅いな。あのキチガイ双子」

「またそうやって悪口。だから連絡取れなくされちゃうのよ。それさえ無ければいい子なのに」

「『子』って歳でもないだろ?」

「……私、三十一になっちゃった」

「おめでとう」

「嬉しくない」


 睨まれてしまった。可愛かった少女も歳をとって気が強くなったもんだ。

 今は、すっかり魔法少女の訓練所と化した高台の公園(唯一政府との関係を保っている七海が完全立ち入り禁止区域にしたらしい)で昔の仲間を待っていた。リトル☆グレープの真島 真弓と、リトル☆レモンの真島 みくり。二人は双子の姉妹でみくりが妹だ。実力は折り紙付きなのだが、性格に異常がある曲者だった。


「あ、来たわね」


 約束の時間を三十分も遅れてやってきた真弓とみくり。遠目からでもわかってしまう。コイツらは小さい頃から何も変わってないんだなと言うことを。

 何せ、この歳にして姉妹で恋人繋ぎをして現れるくらいだ。


「おっひさ〜」

「遅いわよ真弓。相変わらず時間に無頓着だよね」

「だってさぁ、みくが出る時甘えてきちゃってぇ」


 間延びした話し方の真弓は、ぴったりと張り付いたみくりの頭を愛おしそうに撫でる。

そう、この姉妹はガチのレズだ。しかもお互いにヤンデレという恐ろしいポテンシャルを持っている手の付けられない系異端者である。


「あ……じばしり」

「おぅ、久しぶりだなみくり。日本語は話せるようになったか?」


 途端、真弓から鋭い右フックが飛んできて間一髪で回避に成功した。わかっていたとはいえ、子供の頃よりキレがあって内心ビビってしまった。


「地走ぃ、いまみくのこと馬鹿にした?」

「確認してから殴れよ。してねぇわ」


 まぁ、したけど。


「ふん、わかり辛いのは昔からねぇ」

「それより二人とも、その……なんと言うか……お前ら歳取ってねえの?」


 チームメイトは全員同世代。にも関わらず、真弓もみくりも見た目がほとんど変わらない。小学生とまでは言わないが、肌ツヤは高校生くらいで止まっているように見えた。元々身長がえらい低かったけど、まるで同い年とは思えない。ゴシックな服を愛用している所も含めて。

 見せびらかすようにみくりの長い黒髪をサラッと流す真弓は、妹の顔に手を添えて頬ずりする。


「知ってるぅ? 愛情や性的興奮は老化を防ぐんだよぉ? 私たちなんて毎日……」

「おっとそれ以上言うんじゃない。子供が見てる」


 あたしがわかりやすく指を差すと、そこには愛を含めた現魔法少女の三人がドン引きしていた。刺激が強過ぎたのかもしれない。

 彼女らを一瞥して、真弓は「あぁ!」と声を上げる。


「この子たちねぇ。へぇ〜、魔力たっかいなぁ」

「よ、よろしくお願いします」

「うんうん、どの子も可愛ぃ。みくの五億分の一くらいには」

「あ……ははは」


 愛はもうダメそうだ。完全に一線引きたくてしょうがない顔をしている。


 今日は旧魔法少女のあたし達が、現魔法少女の愛達に丸一日かけて修行を兼ねた模擬戦をする事になっていた。今の子は三人、あたし達は五人という数のズレはあるけど、幸い例の優香は休日出勤を言い渡された上に趣味のイベントまで被って動けないらしい。社畜を極めているみたいだから仕事に行くだろうが。


「お姉ちゃん……みく、この子がいい」

「え、わたし……?」

「うん……あなた」


 珍しく先手で話し出したキチガ妹に指名されたのは、三人で一番話さなく影が薄い風利であった。実は、みくりは炎系統の魔法を使い、同じ属性の風利を無意識に同族と認めたのかもしれない。


「みくが言うならそうしましょ〜。二対一だけど、他の二人より二倍の経験値で嬉しいよねぇ?」

「ひっ……」


 この二人の相手とは可愛そうな奴だ。


 まず一組目が決まったところで、さっさとあと二組決めて始めることにした。あたしはもちろん事前に愛からのご指名を受けていたし、七海が美空と組めばいいだろう。

 と、思っていたのだが。


「あたしがあかりと戦う!」

「ん? 七海は嫌か?」

「あたし、あんたに負けたままだもの! あれから強くなったんだからここでリベンジさせてもらうわ!」

「そ、そうか? 愛はそれで大丈夫?」


 先約をしていた愛ではあったが、その事を美空に伝えていたわけではなさそうだった。仕方ないといった苦笑いで、ここは美空の意見を優先することとなる。


「じゃあ、よろしくね愛ちゃん。私たちどっちも水を使うから、お互いに高め合いましょうね」

「はい! よろしくお願いします!」


 ちなみに、お前らどっちもリーダーだぞと言うのは野暮なのだろうか。


「美空、雷のお前は岩のあたしに相性悪いけどいけるか?」

「舐めないでほしいわね!」


 本当に大丈夫なのだろうか。




 こうして、『第一回 新旧魔法少女模擬大会』が開催された。

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