第26話

「なんなのよあいつら。」

 ヒミの目の前に現れるなりいきなり悪態をついたのは芙蓉だった。呆気にとられるヒミに構わず、里での文句を連ね始めた。

「あの紫色の、ふわふわしたぶりっ子が、いっつも何かと構ってくるの。ああいうの嫌いなのに!ひっぱたいてやりたいけど、そんなことしたら他の奴らがどうせ私が悪いみたいに言ってくるんでしょ?わかってるから適当に相手してるけど!」

「あとあの緑の男!人の心が読めるんでしょ?私の心は読めないって前に言ってたけど、油断できないじゃない!読めないふりしてるだけなのかもしれない。あいつ信用できないのよね!」

「それから琥珀色の女も!あの中じゃマシな方だけど、何考えてるのかわかんないし!」

「一番嫌なのは青いやつよ!ヒミはあいつが好きだったんでしょ?趣味悪い!嫌味な感じで、いっつも監視されてる気がするの!どうせかわいいかわいいハナちゃんに危害を加えないか見張ってるんでしょ?ほんと嫌な感じ!」

 ひとしきり吐き出した芙蓉は、思い出したように口端を上げてヒミの聞こえている耳に近づいて囁いた。

「ねえ、いいこと教えてあげる。

 あいつらね、ヒミのことなんか忘れてるのよ。

 ヒミの話なんて全然しないの。

 あいつらのせいでヒミは辛い思いしたっていうのに、

 当のあいつらはなんとも思ってないのよ。」

 ヒミがわずかに眉を顰めたのを確認してさらに続けた。

「宮司やあんた達の神様も何も言わないわ。ただ、私が穢れだって気づいてるけど放っておいてるみたいな?まあ、祓い子なんだから仕方ないわよね?」


「それでも、あいつらのこと懐かしい?あいつらと居たせいで色も音も声も笑うことも泣くことも無くしちゃったのに?

 でもね、コウだって何考えてるかわからないのよ?怪しいと思ったことあるでしょ?何か隠してるって。だからね、あんまり信用しない方がいいわよ?悲しい思いしたって、あんたは泣けないんだから。ただ苦しみを内側に溜めていくことしかできない可哀そうな子なんだから。」


 尚も言いつのろうとしていた芙蓉に、焦ったような声がかけられた。

「芙蓉、来ていたのですか。何を…話していたんです。」

 普段の穏やかな表情は崩れないものの、上がる息と声が焦りを伝えていた。

「今ね、ヒミの大事な元仲間たちのことを教えてあげてたの。皆相変わらず元気よ。って。ね?」

「本当に、それだけですか。」

「私は嘘は吐かないわ。じゃあね。また来るから。」

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イラナイ よしの @yosino-fuma

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