第5話 探検をしよう!


 次の日の放課後、今日も僕は書店へと足早に校舎を出た。


 校門を出てすぐ、見覚えのある後ろ姿、あれは?!


「伊勢崎さん」


 すぐに僕の声と判った彼女はゆっくりと振り抜き、

「ケイト君、今帰り?」


「うん、伊勢崎さん、今日は書店行く?」


「……」


 彼女は急に口ごもった。


(?)


「名前…」


(ぅ…しまった現実だと恥ずかしくてつい苗字で呼んでたけど、伊勢崎さんは僕をケイトと呼んでくれてた…)


「ご、ごめん…現実だと恥ずかしくて…」


「ふふ、本当に女子と話したこと無いんだねぇ」

「え?!本当にって??」

「同じクラスのカズマ君に聞いたの」


(あのチャラ男め!)


「伊勢崎さんは慣れてるみたいだね…」

 ちょっと異性経験の差は寂しかった…


「部長だったもん、男子部員とならね、それだけだよ」

(あ、そっか)

 なんだかホッとしてる自分がいた。


「なんか以外だった、あの青城ケイト君が書店なんて」


「え、あのって?僕のこと知ってたの??」

(なんだなんだこれは、もしかして…)


「部活、小柄なのにめっぽう強いって同級生じゃ有名だよ?」

「そうだったの?!そこまでじゃないけどね…」

 団体戦では県ベスト8だけどチームだし、個人戦はベスト16で僕の高校柔道は終わっていた。


「私はスポーツ全然ダメ、羨ましい」

「本が好きなのも凄いよ、部長まで勤めたんだから」


「真逆だね、私たち」

 嬉しいはずの伊勢崎さんとの下校と会話、でもこれ以上は返事に困ってしまった…。

 いっそこのまま告白できてしまえば…、いや、できるわけがない。


「今まではね」

 あの本では仲間になれる。


「うん、ケイト君で良かった」


「え?!」

(それって…)


「強いでしょ、護ってね」

「も、もちろん!」

(僕が勘繰り過ぎだ、いかんいかん!)


 ……

「ほっほっ、今日も仲良く二人で来んさったなぇ」

「こんにちわ!」

「こんにちわ」


 そして、僕たちはいつものように椅子に座る。

 不意に隣に気配を感じた。

 伊勢崎さんがいつもの角ではなく、僕の隣に座っていた!

「ふぁ?!」

 ビックリして変な声が出た。

「仲間でしょ、離れて座ってる方が変だよ」

(いやいや、流石に隣はヤバイよ!心臓の音を聞かれてしまう!)

「い、行こうか…」

「うん」


 …………

「おかえりなさい♪ケイトさん、カリンさん!」

 お馴染みの元気な声でネルが出迎えてくれた。


「やぁネル、今日は防具だったよね」

「はい、早速参りましょう♪」


 カリンさんは少し静かだったけど、表情は明るく、楽しそうに僕らの後を付いてきている。


 防具はあまり選んでる余裕は無かった。頭、肩、体、足、靴と部位が多いため安価に抑えなくてはお金が足りなくなってしまうからだ。


 頭は雨風を防ぐためのフード、肩の一部を護るパッド、丈夫な繊維で編まれた武道着、雨でも滲みないブーツ、これで精一杯だった。


「なんとか全体的に揃えれましたね♪」

「武道着、そういうのやっぱり似合うね」

 クスクス、とカリンさんに笑われた。


 見習い剣は動きやすさを考慮してバックル付けて背中に背負った。

 柔道経験のせいだろうか、腕や足が十分に動けないと落ち着かないから、腰に下げるのはやめた。


 ページ探しの旅でどれほどの戦闘があるのか判らないけど、一応揃えることができてひと安心といったところか。


「カリンさんは経験済みみたいですが、初心者用洞窟があります、今日はそこへ行きましょう♪」


「うん、冒険っぽくなってきたね!」


 町外れの岩崖にポッカリと開いた洞窟がある。

 ここには低級の魔物が住み着いていて、結果的に初心者用となっているというのだ。


「どんな魔物が出るの?」

「大きな虫とか…」

 と、カリンさん。


 最初の雑魚敵の王道パターン!

 でも、ちゃんと倒せるかな…


 僕は少しビビって入り口で足が止まってしまった。

 拳を握ったままプルプルと震えが止まらない…

 元々僕は無視も殺せないほど気が弱かった、だから強くなりたくて柔道を始めた。それなりに頑張ったつもりだったけど、この場になって怖くなってしまっていた。


 ふと、後ろから左を包み込む暖かい感触があった…。

 カリンさんが両手で僕の震える左拳を握っていた。


「大丈夫、私の知ってるケイト君なら…」

 不思議なほど落ち着き、震えが止まった。


 しかし、下校の時の発言といい、周囲に無頓着だったのは認めるけど、他クラスで話題になるほどそんなに僕は有名だったんだろうか…?


「よし!行こう!」

『はい!』

 ネルとカリンさんの声がハモる。


 背中の剣の柄に手をやり、僕は洞窟へと足を踏み出した!

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