第4話 装備を揃えよう!

 そして僕たちは武器屋に向かった。


 最初の村"ケロク"はそれほど大きくはなく、主要なお店は徒歩で5分範囲内だった。


「武器屋さんは鍛冶屋もやっていて、音が響くので村外れに建ててる事が多いんです」

 と、酒場からは結構歩いていることの理由を解説してくれるネル。



 確かにカンカン叩く音や、鉄を溶かす匂いは中心部だとクレームだろうな…。


 本の中(異世界)でも現実と同じような理由で人々の生活があることを知り、関心していた。


「そういえばカリンさん、何枚かウィッチペーパーを集めたって言ってたけど、魔物退治に有効なページは見つかったの?」


 いわゆる"失われたページ"という、特殊なウィッチペーパーを集めるのが旅の目的。


「うぅん、まだランクの低いものしか…」


「ランク?」


「そこは私がご説明しますね♪」

 お!ナビネルの出番だ!


「ランクとはD→C→B→A→S級の順に付いているレア度の事です♪」


(おぉ!ゲームでよくあるやつだ)


「正直、この付近では"失われたページ"に相当するランクは無く、あくまで準備する程度の物しか手に入りません」


「最初の村だもんね…」


「私が見つけたのはC級魔法"ケア"、D級魔法"ボルト"、後は探しに入った洞窟の地図のペーパー位かな」


「見つけたペーパーは当事者に関する物が出やすくなってます。カリンさんはビショップなので回復・攻撃魔法のペーパーが出たみたいですね♪」


「ということは、僕が見つけたものは攻撃スキルとかのペーパーが出やすい?」


「その通りです♪ケイトさん、流石飲み込みが良いですね♪」


 やったね、現地の妖精に誉められるなんて、素質があるのかも!


「見つけ出したペーパーは自分の"魔導書"に保存することで永久的に使えるようになります♪」


 あ、それでこの読んでるものと同じ本を持っていたのか。


「スキルや魔法であれば、保存してしまえば名前を叫ぶだけで発動させられます」

(声で発動かぁ、長いスキルは噛みそうだなw)


「確か、地図は"マップ"と言いながら本を開くと今いる場所が見えた」

「はい、そうですね♪"失われたページ"を探すのが目的ですが、それ以前に自分達を鍛えるためのペーパーを集める事が重要になってきます」


「より良いペーパーを集めて冒険を進めていって、ランクの高いペーパーを見つけ出す。そういうことだね!」

「大正解です!ケイトさん♪」


「ネルは"失われたページ"の在る場所とか知ってるの?」


「残念ながら知りません、私はペーパーの識別を主に行うスキルを持ってるだけですので」


「それだけでも助かりそうだよ、ネルで良かった!」

「うんうん」

 賛同してカリンさんも頷く。


「ありがとうございます!嬉しいです♪」

 満面の笑みで照れ臭そうにするネル。

「あ、着きましたよ、武器屋さんです」


 …

 カンカンカン…


 予想通りの鍛冶屋の叩く音が聞こえている。


「ごめんください」

 挨拶しながら店の中へ入ると、そこには毎日ハンマーを叩くことで太く立派な腕をした人間っぽい人がいた。

 "っぽい"とは、人間と明らかに違う点がすぐに見つけられたからだ。

 彼には通常頭の横にある耳がなく、頭の上に犬や猫のような縦耳が付いていたからだ。

 これが話に聞いていた"獣人族"だろうか?


「いらっしゃい、なにをお探しで?」

 見た目は屈強な職人だけど、口調は穏やかな商人のようだった。


「片手剣を、どんなものがあるかも色々知りたいんですけど…」

 絶界素人の僕は、まずはなにより"得意そうな人に聞く"というスタンスで臨むことに決めていた。


「冒険初心者だね、片手剣とひとまとめに言うが、長剣、細剣、曲剣、太刀、小剣、片手で扱えるという意味であればジャマダハルも入るね」


(うぉ、いっぱい出たー!)


「ケイトさんのチェックペーパーで出たのは長剣に近い気もしましたね」

 なるほど!ネルの知識は本当に役に立つ!


「長剣ね、今はこのロングソードしか無いんだが、どうだい?」

 そういって差し出された剣はスラリと長く、西洋の剣といった形状、天に向かって突き出すとカッコ良さそうだ。(かなり僕はファンタジーゲームにかぶれてる)


「これが…武器…」

 恐る恐る手に取ってみると、ズシリと重い!

 今の僕ではとてもじゃないけど、片手では無理みたいだ。


「適正は出たけど…ケイト君には無理っぽいね」


 ガーン!

 カリンさんにはっきりと言われてしまったー!


 仕方ないか、ロングソードを両手で持っても腕がプルプル震えてるんだから…

 しかし、柔道で鍛えた体は全く役に立っていないんだな…


「それなら兄さんが剣に慣れるまでに打ってつけのがあるよ」

 おもむろに主人が出してくれたのは、なんとも手頃な長さの剣だった。


 持ってみると重さもちょうどよく、手に馴染む。


「アプレンティスソードっていうんだ」

 ※アプレンティス(見習い)


 あ、そういう事ね…


「これにします…」

 ちょっと恥ずかしかった。剣を振るってカッコよくカリンさんの前でキメたかったのに、情けない所ばかり見せてしまった…。


 この先、もし危険な事があって、剣士としてカリンさんを護ることが僕に出来るんだろうか…


「次は防具を揃えたい所ですが、どうやらお時間みたいですよ♪」

「え?」

 ネルがにっこり幌笑みながら手を振っている、ゆっくりと霧がかかるように僕らは現実に戻された…。


「今日の冒険は楽しかったかぃ?もう夕方やよ」

 お婆さんがトントンと肩を叩いて起こしてくれていた。


 僕はふいに気になり、カリンさんの座っていた方に振り向いた。


 そこには戻ってきて少し眠そうにしている伊勢崎さんが、同じくこっちを見ていた。


「これからもよろしくね、ケイト君」

 絶界では何度か見せてくれた笑顔だったが、現実では初めてで、やはり生身では胸の打たれ方が断然違ってた。

 ほ…本物は凄い破壊力だ…

 心臓が飛び出しそうなほど脈打ち、頭が噴火しそうに真っ赤になりながら僕はやっとの想いで返事した。


「ぅ、うひはぃ!」

 もはや言葉ではなかった…。


「なにそれ、あははははははは」

 お腹を抱えて笑う伊勢崎さん。


 笑われたぁぁぁぁぁぁぁぁ!

(でも笑い顔がまた可愛いぞーちくしょーー!)


 …

「また明日」

「うん、またね」

 残念ながら家の方向は書店から真逆ということで、店の前で伊勢崎さんとサヨナラして、僕は赤く染まった街を潜り抜けながら、軽快な足取りで家へと帰った…。


 "また明日"

 かぁ~!

 明日も一緒に冒険してくれるって事だよね!!

 嬉しさを隠しきれず、すれ違う小学生に気持ち悪がられる位のニヤケ顔で、時折スキップまでしてしまうほど浮かれていた。

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