第十一話 夢の競演!歴代スーパー戦隊大集合

 ボウエイジャーと彼らが搭乗する巨大ロボを独力で開発したという天才科学者、万代博士。彼の身辺を徹底的に調査するよう、戦闘員Aは情報部に要請した。

 優秀な諜報能力を有するデスガルム親衛隊情報部は、ほんの数日で万代博士に関する情報を洗いざらい調べあげて結果を報告に来たのだが、情報部の戦闘員はどうにも冴えない顔をしている。


「万代 仲夫、五十四歳。東京生まれ。三年前に突如、茨城県水戸市の郊外に広大な山林を購入すると、その地下にボウエイジャーの秘密基地を建設しています」

「この短期間で、敵の秘密基地の場所まで調べ上げるとは、さすがは情報部だな。彼の家族構成はどうなっている?」

「実は……それが問題なんです。この万代 仲夫という男性、なんと戸籍が存在しないんです。偽名等の可能性も考慮して、あらゆる方面から調査しましたが、一切の痕跡が存在しません」

「なるほど。そうか」

 その報告を聞いても、戦闘員Aは全く意外そうな顔をしない。その様子に、情報部の戦闘員のほうが意外そうな顔をした。

「親兄弟の存在についても探ってみましたが、親類縁者も全く居ないのです。ただの一人も。実に不可解です」

「ふむ」

「出身大学は筑波大学と自称していますが、実際に調査してみたところ、万代 仲夫という卒業生はおりませんでした。それ以外にも色々と調べてみましたが、驚くべきことにこの万代 仲夫という人間、あらゆる個人情報が偽造されたものなのです。彼は、一体何者なのでしょうか……」


 戦闘員Aの顔色を伺いながら恐る恐る報告する情報部の戦闘員に対して、こんな内容、自分はとっくに知っていたとでも言わんばかりの顔で、戦闘員Aは静かに言った。

「異星人だよ。万代 仲夫は異星人」


 「はあ?」と情報部の戦闘員がポカンとした顔で聞き返してきた。

 戦闘員Aは「これはまだ私の仮説の段階であって確証はないのだがね」と前置きした上で、情報部の戦闘員に対して自分の考えを説明した。


「侵略の一巡目の頃から、この星のちぐはぐな状況にはずっと違和感があった。

 原始的な文明しか持っていないこの星に、唐突に存在する最新型の第八世代武装勢力。しかもその武装勢力は、この星のどの国家の支援も受けておらず、それ以前にそもそも、この星の誰もが、この宇宙最強クラスの武装勢力を軍事力とすら認識していない」


 そこで戦闘員Aは、情報部の戦闘員の目をじっと見つめた。

「以上の状況を総合して、さまざまな考えうる仮説を消去法で絞っていく。

そうすると、万代 仲夫が実は異星人で、原住民に自らの正体を隠してボウエイジャーの技術を彼らに供与しているという仮説が、最も矛盾が少ないんだ」


 なるほど、と情報部の戦闘員はうなずいたが、内心背筋が凍る思いがして、気づかれないように苦い唾液を飲み込んだ。こんな鋭い指摘をしてくる幹部戦闘員に対して、下手な報告をしたらそれこそ大恥をかいてしまうに違いない。


「おそらく、ボウエイジャーに変身している原住民の若者たちは、万代 仲夫の正体や真の目的は全く知らされないまま、彼の手先として戦闘に加担しているのだろう。

 不可解な事だらけだったボウエイステルスの謎の寝返りも、十中八九は彼が仕込んだものだと断言してよいのではないかと思う」


 そう説明した戦闘員Aだったが、親衛隊の内部におそらく裏切り者がいるに違いないという自分の推測については黙っていた。下手に話してしまうと、どこからかその話が漏れて裏切り者に警戒されてしまう危険がある。


「しかしまた万代博士は、なぜそのような事を……」

 情報部の戦闘員の素朴な質問に、戦闘員Aは深いため息をついた。

「それなんだよな……。そこは依然として謎だ。調査が必要だ」


 そして気分を切り替えるようにこう言った。

「まぁ、いずれにせよ今の報告で自分の中の全ての謎が繋がって、疑問が確信に変わったよ。ありがとう、ご苦労だった。

 ちょうどいい。次の次が私の第四連隊が出撃する巡番だから、万代博士を誘拐して尋問する作戦を上に提案してみよう。彼の誘拐に成功したら、情報部にまた色々と協力をお願いする事もあるかと思うから、その際にはよろしく頼む」


 次巡は第三連隊所属のテントウムシ型カイジンが出撃した。自分の連隊の出撃回ではないため、戦闘員Aは司令室の巨大ディスプレイの前で戦況を眺めていた。


 戦闘は、だいたい毎回ボウエイジャーの誰かしらが問題を起こしたり仲違いをしたりするといった若干のトラブルを伴いながら進んでいく。

 ボウエイジャーは確かに強いが、六人の若者たちは明らかな戦況判断ミスを犯すことも意外に多く、また、六人が常に一糸乱れず団結しているわけではない。

 だから、もう少し彼らの未熟さや人間関係の綻びを上手に突くようにすれば、作戦の成否もだいぶ変わってくるのではないかと戦闘員Aなどは思う。それなのに、どの連隊も漫然と毎巡同じような作戦を仕掛けては負けるという、ワンパターンな戦いを延々と続けている。戦闘員Aは歯がゆかった。


 ただ、今回の出撃はどこか状況が違った。デスガルム軍のカイジンが出撃するや否や、間髪入れずに赤い色の戦士が迎撃に現れた。ボウエイジャーは毎回なぜか生身で現れて、わざわざ危険な敵前で変身するのだが、時間が足りないのか今回に限ってはずいぶんと急いでいるようでもある。


 と、そこでデスガルム軍司令室の面々は異変に気付いた。突然現れた赤色の戦士は当然いつものボウエイジャーだろうと誰もが最初思ったのだが、よく見るとこの戦士、ボウエイジャーとは細部のデザインが異なる全くの別人だ。


 そこに、おなじみのボウエイジャー六人組が徒歩で駆けつけた。彼らは彼らで、この唐突に現れた謎の赤い戦士の姿を見て驚き戸惑っている。ということは、この赤色戦士はボウエイジャーにとっても初めて会う未知の相手であるらしい。

 謎の赤色戦士は最初、デスガルム軍カイジンに襲いかかってきたが、その一方で変身したボウエイジャーにも戦いを仕掛けていたので、この戦士がボウエイジャーの敵なのか味方なのかもよく分からない。

 そうやって周囲の全員にだれかれ構わず一通り戦いを挑んだ挙句、謎の赤い戦士は「無敵戦隊サイキョウジャー」と自らの名を言い捨てると、忽然とどこかに消えていった。


「一体何だったのだ、今の武装勢力は!」


 突然乱入してきた謎の戦士が去っていった後、デスガルム親衛隊の司令室はまるで、株価が大暴落した証券取引所のような大騒ぎになった。

「鉄壁戦隊ボウエイジャー」だけでもこれだけ苦戦させられているというのに、ボウエイジャーと姿形のよく似た「無敵戦隊サイキョウジャー」なる第三勢力まで武力介入してくるとは、一体これはどういうことなのか。

 絶望してため息をつく者、驚愕のあまり固まって呆然と動かなくなる者、怒号を発して意味不明な指示を次々と出す者。強い感情波長のテレパシーが乱暴に室内を飛び交い、ローカルエリア通信の速度が一気に重くなった。


 各人の感情が激しく渦巻く司令室の中で、戦闘員Aは「全員落ち着け。状況がどうであれ、まずはこのサイキョウジャーという新たな勢力の背後にある組織をただちに洗い出し、そこと接触を図るのだ」と呼びかけた。しかしその声は混乱にかき消されて、誰の脳にも届かなかった。

 その後、時間の経過と共に、混乱していたデスガルム軍親衛隊司令室も落ち着きを取り戻してきた。しかし次第に明らかになってきた状況は、デスガルム軍にとっては大変不都合なもので、彼らを絶望のどん底に叩き落とした。


 デスガルム軍は、無数の超小型偵察ロボに常時ボウエイジャーとサイキョウジャーの周囲を監視させており、彼らの情報は全て筒抜けだ。

 当初は敵か味方か不明瞭だった「無敵戦隊サイキョウジャー」だったが、彼らは「鉄壁戦隊ボウエイジャー」のメンバー達とぶつかり合いながらも、短期間で急速にお互いを認め合うようになっていった。

 そして、打ち解けた仲になった「無敵戦隊サイキョウジャー」のメンバーが語ったところによると、彼らは「鉄壁戦隊ボウエイジャー」の先輩格に当たる戦士なのだという。最初に突然襲いかかってきたのは、まだ経験が浅く未熟さの残るボウエイジャーの実力を確かめるために、わざとやったことらしい。


 デスガルム軍の参謀たちは当初、もしサイキョウジャーがボウエイジャーとは無関係の第三勢力であれば非常に助かるなぁ、という一縷の甘い希望を抱いていた。もしそうだとしたら、サイキョウジャーと接触して交渉し、共闘関係を結んで一緒にボウエイジャーと戦うことができるかもしれない。

 だが、そのような都合のいい淡い期待はすぐに消えた。それどころか、彼らが先輩と後輩という関係だということは、両者が力を合わせてデスガルム軍に襲いかかってくる危険性は極めて高い。


 しかも、サイキョウジャーは先輩戦士として、これまでの戦いの歴史と戦士としての心構えをボウエイジャーに向かって語りはじめたのだが、その驚くべき内容にデスガルム軍司令室は再び騒然となった。

 なんと、この地球という星にはこれまで四十二組もの戦隊が存在していて、定期的に代替わりしつつ、この地球を侵略者から守り続けてきたというのだ。

 無敵戦隊サイキョウジャーは、ボウエイジャーの五代前に存在した武装勢力で、その当時に地球を襲撃してきた「宇宙海賊バンディガス」と戦って壊滅させたのだという。


「何だと……宇宙海賊バンディガスは地球に来ていたのか……」


 宇宙海賊バンディガスは、デスガルム人もよく知った名前だった。各国の軍隊や警察組織を悩ませてきた国際的な凶悪犯罪組織で、極めて巧妙かつ慎重に自らの根拠地を隠す事で有名であり、その組織の実態はほとんど知られていなかった。


 バンディガスはある時期から突然活動を休止し、そのあまりに唐突な消滅ぶりに各国の治安責任者たちは首を傾げつつも安堵したものであるが、彼らがまさかこんな辺境の星の侵略を計画し、逆に現地の武装勢力に壊滅させられていたとは。


 しかも、サイキョウジャーが語った情報をそのまま信用するのであれば、このような侵略者は別に宇宙海賊バンディガスに限った事ではなく、この星には毎年必ず何らかの侵略者がやってきては、地球を守る戦隊と同様の戦いを繰り広げてきたというのだ。

 この戦略的に何の意味も持たないような辺境の惑星が、これまでに四十二回もの侵略を受けているというのも実に不可解な話だが、幼稚な文明しか持たないのにそれを全て撃退してきたというのも、にわかには信じがたいことである。


 宇宙海賊バンディガスが姿を消してから、もうかなりの年月が経つが、この突然現れた「無敵戦隊サイキョウジャー」の戦いぶりをみる限り、彼らの戦闘能力にブランクは全く感じられない。

 変身を解いて通常の地球人の姿に戻ったサイキョウジャーは、すでに青年期を過ぎ壮年期に達した風貌になっているが、加齢による衰えよりもむしろ、様々な経験を積んで人間的な深みを増した、実に頼もしい表情をしていた。


 戦隊は定期的に代替わりしていると言っていたので、五代前の先輩だというサイキョウジャーは、現在は満期除隊して予備役に入っているのだろうか。

 だが、サイキョウジャーのキレのある戦いぶりはとても予備役とは思えず、装備の古さも全く感じられない。つまり少なくとも、五代前までの武装勢力はまだ十分戦力として役に立つような状態で、この地球のどこかに存在しているということになる。

四十二代もあるという過去の歴代戦士のうち、さすがに初代に近いものはもう古すぎて今では役に立たないものと推測されるが、果たして何代前までの戦隊が、今でも戦力になりうる状態で残されているのだろうか。


「鉄壁戦隊ボウエイジャー」一つだけでも十分に宇宙最強クラスの実力を有しているというのに、それと同じような戦闘力を持つ先輩戦隊が、十個も二十個も予備役で存続されていたらたまったものではない。

 もしこれが、我々を混乱させるための敵側の偽情報ではなかったとしたら、これはもはやデスガルム軍対地球という単なる戦争の枠を越えた、宇宙全体の軍事パワーバランスを一気に崩壊させる重大な事実に違いなかった。


 デスガルム総司令をトップに仰ぐデスガルム親衛隊は、規定の範囲内であれば本国に報告せず自律的に行動する事が許可されている。だからこそ、この地球での連戦連敗を、四人の連隊長たちはまだ一切本国に報告していない。

 しかし、もしこの四十二組の武装勢力の存在が事実であれば、さすがにその重大情報を本国に報告しないわけにはいかない。それは、無様に地球で負け続けたこれまでの戦闘の結果もあわせて報告しなければならないという事でもある。

 司令室内は騒然とし、不確実な憶測やら短絡的な悲観論やら、恐慌状態に陥った戦闘員たちの乱れたテレパシーが無数に飛び交って、喧騒は収まる気配もない。


 するとその時、戦闘員Aの鋭いテレパシーが電磁空間を切り裂いた。

「うろたえるな! 我々は世界最強のデスガルム親衛隊であーる!」


 その強出力のテレパシーに、混乱は一瞬で吹き飛ばされ、凛とした静寂がしばらく流れた。誰もが戦闘員Aの気迫に押され、反射的に身動きを止めた。

 皆が我に返ったのを確認したところで、戦闘員Aはコツコツと靴音を立ててゆっくり歩きながら、司令室にいる戦闘員達に力強い口調で語り掛けはじめた。


「敵の正体が分からないから、恐怖するのである。敵の正体さえ分かれば、大抵の場合、自分はこんなものに怯えていたのかと馬鹿馬鹿しく思えるものだ。

 それを何だお前たち。それでもデスガルム親衛隊の戦闘員か? 恐怖を感じたら、怖い恐ろしいと騒ぎ立てれば恐怖は消えるのか?

 違う! 恐怖を感じた時こそ、ただ黙って相手を見るのだ。恐怖に耐え、相手をじっと観察するのだ。すると相手が見えてくる。相手が見えてくると恐怖が消える。違うか!」


 司令室内は、誰もが凍り付いたような表情で身じろぎ一つせず、針が落ちても音が響くような静けさになった。戦闘員Aは続けた。


「今回新たに現れた無敵戦隊サイキョウジャーには、不可解な点が多数ある。

 まず、我が軍はこれまでに何度か、ボウエイジャーを絶体絶命の危機にまで追い込んできた。その最悪のピンチの時に、これら四十二組の歴代の過去の武装勢力たちは、なぜ助けに来なかったのか。彼らは一体何をしていたのか」


 戦闘員Aの問いかけに答えようとする者は誰もいなかった。彼は続けた。

「彼らは普段は予備役にあると推測されるが、今までボウエイジャーが苦戦している時には現れず、この何もないタイミングで唐突に現場復帰をしてきた。これは非常に不可解なことであり、そこには何らかの理由があるものと推察される。

それに、予備役から現場に復帰するにしても、なぜ五代も前の無敵戦隊サイキョウジャーなのか。もう少し若く、現役に近い部隊を派遣した方が戦略上はどう見ても有利ではないのか」


 そこで、戦闘員Aは少し口調を和らげてこう演説を締めくくった。

「とにかく、憶測で話をしていても意味がない。事実に基づいて判断するのだ。歴代戦士の痕跡について情報部に徹底的に調べてもらう。議論はそこからだ。

 情報が集まるまでは……仕方あるまい。次巡は我が第四連隊の万代博士誘拐作戦を予定していたが危険すぎる。とりあえず一巡は出撃を見送る事を、私からドルカース様とデスガルム様に進言しよう」


 普段よりも派手な戦闘に巻き込まれた哀れなテントウムシ型カイジンは、ボウエイジャーとサイキョウジャーの二戦隊からの集中攻撃を受け、ひとたまりもなく撃破された。

 七日おきの定例の出撃を一巡見送る間、情報部はそれこそ不眠不休で歴代の武装勢力についての調査を進めた。緊迫状態が続くデスガルム司令船内とは対照的に、その間地球では、アメリカで大きなゴルフの世界大会が開催されるなど、平和で普段と変わらない日常が続いていた。


 そして、情報部の調査結果を報告する日がやってきた。

 司令室に集まった幹部戦闘員たちは、緊張の面持ちで情報部の戦闘員の報告に耳を傾けていた。


「結論から申し上げますと、過去の戦隊は予備役に入っていて、現役に復帰する機会はきわめて限定的です」


 冒頭、情報部が述べた結論に、部屋中にざわざわとテレパシーが飛び交い司令室内は騒然となった。情報部の戦闘員は喧騒が収まるまでしばらく待ち、報告を続けた。


「まず、『無敵戦隊サイキョウジャー』が言及していた四十二組の過去の戦隊の存在についてですが、確かに文献に記録は残っているものの、任期満了後の活動はほとんど実績がありません。

 その点から、現在はほぼ全てが退役し、武装解除されたものと理解して問題ないかと思われます」


 その瞬間、部屋中から安堵のテレパシーが漏れた。誇り高き最強のデスガルム軍が、敵軍の弱さを示す情報を聞いて安堵するなど嘆かわしいと戦闘員Aは憤ったが、これまでの苦戦を考えると、やむを得ない事かもしれないと思い直した。


「ボウエイジャーをはじめとするこの星の謎の武装勢力は、サイキョウジャーが語った通り、一年間を任期とした交代制となっていました。任期が満了すると部隊は解体され、次の部隊に業務が引き継がれます。武装勢力は通常五~六名構成の一部隊のみであり、二部隊以上が並行して常備されるケースはありません」


 すかさず戦闘員Aは挙手して質問を畳みかけた。

「しかし、どうして奴らは部隊数を増やさないのか」

「あくまでこれは推測の範囲ですが、おそらく維持管理上の問題ではないかと。つまり彼らは、同時に二部隊を常時運用できるほどの設備と兵站を保有していないものと考えられます」

「だが、今回は『無敵戦隊サイキョウジャー』と一緒になって、二部隊が同時に作戦行動を行っている。だとすると、その憶測は見通しが甘いのでは?」

「予備役となっている昔の部隊を一時的に再招集するといった程度であれば、二部隊同時作戦を行っている例は実は過去にも多数存在しています。

特に、一代前と二代前の部隊が約半年おきに現役復帰することはほぼ常態化している模様です。よって、『鉄壁戦隊ボウエイジャー』の一代前にあたる『流星戦隊ワクセイジャー』と二代前の『忍戦隊オンミツジャー』は、いつ我々の前に現れても不思議ではなく、厳重な警戒が必要でしょう。

 ただ、そのような予備役部隊の一時的な現役復帰はしばしば行われているものの、長期間軍務に従事した例はなく、あくまで単発の部隊支援に留まります。

 この点から、これはおそらく軍務の引継ぎを目的とする、あらかじめ計画された一時的な復帰であると推測されます。彼らは、ごく限られた場面でのみ二部隊が同時出撃することはあっても、それを常時運用できるだけの設備や兵站は有していないとの結論に至りました」


 戦闘員Aはうなずいた。相変わらず、我が軍の情報部隊の諜報能力は素晴らしい。

「なるほど。一代前や二代前の部隊が、先任将校として軍務の引継ぎのために復帰するというのは確かに理解できるな。しかし『無敵戦隊サイキョウジャー』は五代も前だ。随分と昔の担当者を呼び出してくることもあるものだな」

「はい。これもほぼ常態化していて、年に一回程度、二代前よりもずっと昔の部隊に招集がかかっております。ただ、何代前の部隊に招集がかかるかは戦況に応じて変化するので、法則性はみられません。

 また、招集されてもメンバーの方がそれに応じない事例が多数みられます。彼らは任期満了して一年経過した後は完全に民間人に戻るらしく、招集に対する拒否権があります。

 各人が自分の仕事のスケジュールなどを踏まえて招集に応じるかを決めますので、部隊全員の都合が合わず、二~三人だけが復帰するというケースも非常に多く見られます」

「こんな年寄りをわざわざ復帰させて、何が目的なのだろうか」

「それは全くの謎ですが、ベテランを講師に呼んだ研修のようなものではないかとの仮説を立てております。サイキョウジャーがボウエイジャーに接する時に取っていた先輩風の態度も、この仮設を裏付けるものです」


 さっきから、戦闘員Aと情報部の戦闘員だけが白熱した議論を繰り返している。それ以外の会議参加者たちは、黙ったまま何となく白けた顔でその様子を眺めていた。


「それにしても、彼らはなぜこのように短期間で次々と部隊を入れ替えていくのか。

変身前の人間は徐々に歳を取っていくので、任期を定めて定期的に若い人間に交替していくというのはまだ理解できる。だが、変身後の五色の部隊については、わざわざデザインや武器をまるまる一新する必要は無いと思うのだが。こんなに頻繁に作り変えていたら、コストが嵩んで仕方ないだろうに」

「その点も謎の一つですね。数年に一度、武装を最新のものに入れ替えるという程度の改変であれば理解できますが、一年に一度というのは軍備としてあまりにも更新頻度が高く、変更箇所もあまりに多すぎます。この点については今後も調査が必要です」

「なるほど、それではもう一つ質問したいのだが……」


 その時、会議の司会を務めていた戦闘員Fが割って入った。もう会議の時間が予定を超過しているので、今日はここまでにしましょうと言う。

 普段であれば会議が予定よりも多少伸びることなど普通にある事だし、何を言うかと戦闘員Aは一瞬鼻白んだが、そこでようやく、会議室を支配するじっとりとした醒めた空気に気付いた。


 ――これ以上、変な詮索をして結論を揺さぶるなよ。過去の戦隊は基本的に助けには来ない。我々が相手するのはボウエイジャーだけ。だから本国への連絡は不要。それでいいじゃないか――


 テレパシーには出てこないが、会議参加者の誰もが内心そう思っていることが、表情と態度から明確に伝わってきた。


「あ……うん。それでは細かい点は後で個別に確認させてもらう事にしよう」

 そう言って戦闘員Aは力なく引き下がった。


 そうやって事実の確認を中途半端に終わらせてしまうから、不測の事態に際して分析が甘くなるんだ。

 そうやって希望的憶測に基づいて、自分の都合のいいように事実をねじ曲げてごまかしていくから、いつかごまかし切れなくなる時が来るんだ。


 負けて当然だ。何が宇宙最強だ。


 戦闘員Aは会議後、自室に直行するとベッドに倒れこみ、そのまま微動だにせず、いつしか眠りに落ちていた。勤務時間があと少し残っていたが、もう別にどうでもよかった。


 どうせ、今日の会議の報告でみんなすっかり安堵して、今頃は呑気に祝杯など上げていることだろう。こんな日に私一人がフラッと居なくなったところで、誰も気にはしないさ。

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