第3話「現実」木陰の記憶

 数年前、バスに乗っていた日、ふと畑の中に一本だけ木があるのを見かけた。今はその木は工事の関係でなくなってしまったけど。


 その木を見つめていたとき、二人の男女の姿が見えた。背の高さからして親子のようにも見えた。


 背が高い男性は軍服のような服装をしている。

 対照に背は低く猫背のエプロン姿の女性がいた。


 弁当を片手にその軍服の男性に渡している様子だった。

 なんだか、ふと涙が浮かべてしまった。


 涙を手で拭い、視界を外した。

 再び見たとき、二人はもう見えなくなっていた。


 あるのは木が寂しそうに立っているだけ。

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