少女、闇の巫女との戦い

「あれが闇夜の巫女フォンセ」


 リリィの視界にはこちらに手をかざすフォンセの姿があった。


 リリィはアビーが身体を動かしやすくするために、深呼吸をして、身体の力を抜く。


「消えろ」

(来た!)


 フォンセの手から複数の闇の矢のようなものが飛来してくる。

 リリィは身体が勝手にに動きだし、それらを避けていく。

 そして、避けきれない闇の矢を斬ろうとする動きを始める。


「っ!エンチャント・ライト!」


 リリィはすぐさま剣に光の魔力を纏わせる。

 ギリギリ間に合い、闇の矢は光の魔力を纏った剣に切り裂かれ、霧散する。


(もう、アビーさんは無茶するんだから。でもこれじゃあ身体が持たないかも)


 リリィは自分の身体の主導権をアビーに渡しているため、無茶な動きをすると、それに対する痛みは身体にやってくるのだ。



「それなら・・・猛き炎!清き水!母なる大地!天翔ける風!我に祝福を!!エンチャントメント・カルテット!!」


 リリィは攻撃を避けながら、自分自身に強化魔法を掛ける。

 身体はアビーが操作しているので、動きながらでも詠唱に集中が出来るのだ。

 強化魔法が掛かると、今までの動き以上に動きが速くなった。


(うぅ・・・痛い。これ明日動けるのかな)


 リリィはその恐怖を感じるが、この動きでなかったら、既にやられてしまっているだろう。


「光よ・仇成す者・撃ち抜け・ホーリーアロー!」


 リリィは避けながら光の魔法攻撃を仕掛けてみる。

 光の矢は闇の矢を掻い潜り、フォンセの元まで飛んでいく。


 しかし、目の前で闇の魔力に弾かれてしまう。


「やっぱりあれだけ濃い魔力を纏っていたら、弾かれちゃうか」


 だけど、今の攻撃でどれくらいの魔力が通るかも検討がついた。


「それなら!天の光よ・彼の者に・神の裁きを与えよ・ディバインロア!!」


 リリィが魔法を唱えると、フォンセの頭上から裁きの光の柱が降り注いできた。


 最初は闇の魔力で防御が出来ていたみたいだが、持続する光の柱はその闇の魔力を剥がしていく。


「あああああぁぁぁぁぁぁあああ!!!!」

「きゃっ!!」


 フォンセが雄叫びを上げると、衝撃波が走り、ディバインロアが弾かれてしまい消えてしまった。


「コロスコロスコロス!!!」

「っ!?」


 ギンっ!!


 フォンセは手から闇の剣を生やし、斬りかかってきた。

 幸いにもアビーがそれに反応し、光の魔力が宿った剣で防いでくれた。


「っ!!」


 リリィの目の前で、目では追えない速度で繰り広げられる剣戟に恐れを感じてしまう。


(大丈夫。アビーさんならきっと)


 リリィは自分の身体を操るアビーを信じて、剣戟の隙が無いかを探そうとする。


(・・・あれ?今なにかが・・・)


 剣戟の中で一瞬だけ闇の魔力が大きくなる瞬間を見つける。

 剣自体は速くて見えないが、魔力の流れなら、リリィは感じ取ることが出来た。


(・・・・・・手の甲?)


 リリィは目を凝らして、その闇の魔力が大きくなっている場所を発見する。


「シネ!!!」

「きゃあ!!」


 見つけた瞬間、闇の剣が巨大になり、リリィの身体は吹き飛ばされてしまう。


「オワリダ!!」

(リリィ!!)


 闇の剣がリリィを貫こうとした瞬間、一瞬だけ光の障壁が現れ、剣の軌道が僅かにずれた。

 そして、次の瞬間にはリリィは剣でフォンセの左腕を斬り裂いていた。

 フォンセは一気に距離を取り、恨めしそうな顔でこちらを睨んでくる。


「・・・お母さん?」

(娘を守るのは当然よ)


 リリィの嵌めている指輪の宝石からリュミエルの声が響く。


(さて、アビー。この今の状態なら私の声も聞こえているはずです。リリィ、光の魔石を剣にセットしなさい。アビーはその剣でフォンセの右腕を狙いなさい)

「やっぱりあそこが」


 右腕はさっき見た闇の魔力が大きくなっている方の腕だ。


「アビーさん、もう一本剣を創ります。大いなる光よ・全てを浄化せし・光の剣を我が手に・コール・ホーリーセイバー!!」


 リリィの空いていた左手にもう一本の光り輝く剣が出現する。


 先程分かったことだが、こういった光の魔力を放出しないで収束して使う魔法の方が、相手にダメージを与えられるのだ。

 普段は剣を扱えないリリィには難しいが、今はリンクの魔法でアビーが身体を操っているので、いまなら扱うことが出来る。


「行ってください!!」


 リリィが叫ぶと、リリィの身体は剣を二本構えてフォンセに斬りにかかる。

 フォンセもそれに対抗するために、宙に幾つもの闇の剣を出現させ、宙で回しながら対抗してきた。


 幾重にも重なる剣戟の応酬は光と闇のコントラストで辺りを彩る。


 お互いに傷を負っていくが、フォンセは傷がみるみる内に回復をしていく。

 一歩リリィは生傷が増え続け、服もあちこちが破けている。


「アビーさん!!」


 リリィは痛みと恐怖からアビーの名前を叫ぶ。

 アビーもそれに答えようとリリィの身体で頑張るが、後一歩届かない。


(リリィ!解放を使うのです!)

「っ!そうだ!リリース!!」


 リリィがその言葉を口にした途端、フォンセを斬り裂こうとしていたリリィの魔法で創った剣が輝きを増した。

 フォンセが守ろうとしていた闇の剣諸共、リリィの剣はフォンセの身体を斬り裂いた。

 そして、リリィの創った剣は光の粒となって消えていった。


「今です!!」


 リリィが叫んだ瞬間、残ったもう片方の剣でフォンセの右腕を切り落とすことに成功した。


「グガアアァァァァァ」


 もうフォンセは人では在らざる声で叫ぶ。


 斬られた腕からは血ではない黒い何かが噴き出している。


(・・・リリィ、後は頼みます!)


「お母さん!?」


 リリィの指輪から宝石が外れ、苦しんでいるフォンセに向かって飛んでいく。


(あれが無くなっているのあれば今の私の力で!)


 リュミエルは自身が所有していた魔力を全開放して、フォンセを光の結界に閉じ込めた。


(リリィ!今です!!)


「で、でも!」


 この状態で攻撃をしてはリュミエルも消してしまうかもしれない。

 リリィはそう考えると詠唱を唱えることが憚れた。


(リリィ!!)


「・・・・・アビーさん」


 リリィの身体を動かしているのはアビーだ。

 身体は勝手に動き、剣に光の魔石を装着した。


 そして、剣の切っ先を光の結界に閉じ込められて苦しむフォンセに向ける。


「・・・・・・・大いなる光よ」


 リリィは目を閉じ、覚悟を決めて詠唱を開始する。


「我と契約せし精霊・万物の力をここに」


 リリィの中に集まったアーシー達の魔力も全てをこの魔法に込め始める。


「連なり連なれ・理を破壊せし極光」


 剣から発せられる光の魔石の光が、フォンセの足元に巨大な魔法陣を創り出す。


「ディバインジャッジメント!!!」


 魔法陣から天高く眩しすぎる光が昇った。

 それはフォンセの身体を全て浄化する光。

 光の中で闇に身体の全てを蝕まれていたフォンセは粒子になって消えようとしている。


((ありがとう))


「っ!?」


 ふと、リュミエルとフォンセの声がリリィの頭の中に響いた。


「・・・さよなら。お母さん」


 リリィの瞳からは涙が溢れだす。


「・・・・・・下りよう」


 リリィは皆が待っている場所に引き返そうとする。


「・・・・・・・え?」


 リリィは自分の身体を見下ろす、お腹からフォンセの腕が突き刺さっていた。


(オマエノチカラ・・・モライウケル)


「あ・・・びー・・・・さん・・・・・」


 リリィはそのまま地上に向かって落下を始めるのだった。

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