少女、攻勢へ

「さてと・・・リリィちゃん、準備はいい?」

「はい!」


 リリィ達は街から少し離れた平原に来ていた。

 途中で活性化している魔物に出会ったが、リリィ達の前を行く闇夜の使徒のメンバーが倒してくれた。

 お陰様でリリィは魔力の温存が出来た。


「それにしてもかなり大きな結界なんだな」

「確かにこの先もまだ続いているようだ」


 アビーとロイスは遠くを見て言った。

 時刻的にはもう夜は明けているはずなのだが、相変わらず暗いままだ。


 そして、そのことが街の人々を不安にさせていた。

 でも、そこはセレナ達ハンター協会が上手くまとめているみたいだ。

 そのおかげで、大きな騒ぎにはなっていない。


「リリィちゃん」

「なんですか?」

「多分だけど、リリィちゃんがあの太陽を一部でも破壊すれば、あれの標的はリリィちゃんになる可能性が高いと思うの」

「そう・・・ですよね」


 それはリリィも予想はしている。

 あの空に浮かぶ暗黒の太陽はあくまでも二人の負の思念体の外装に過ぎない。

 例え、外装を破壊出来たとしても、闇夜の巫女フォンセの身体に宿っているであろう負の思念体には、ここからの魔法では届かないだろう。


「でも、あの暗黒の太陽を破壊出来れば、この闇の結界友呼べるこれも消えるはず。そうすれば闇夜の巫女フォンセ様に宿る負の思念体は弱体化するはず」

「そこを私が追い詰める。そういうことですか」


 メアはリリィの言葉に頷いく。


「でも、どうやってあそこまで行けば・・・」


 問題となるのが、暗黒の太陽にどうやって行くかだ。

 破壊して、標的となったとしても、上空から狙われては反撃は難しいし、周りの皆にも危険が及ぶ。


(そこは私が何とかしましょう)

「お母さん?」


 そこにリュミエルの声が頭の中に響いた。


(私の宿るこの魔石の力を解放して、引き合う力と逆の力を働かせます。そうすれば、しばらくの間は宙に浮かぶことは出来るでしょう。移動はリリィが風の魔力を制御出来れば可能なはずです)

「お母さん・・・」


 魔石の力を解放する。

 それはアーシー達精霊みたいに自分自身の存在するための力を使うということ。


「あ、でもアビーさんは」

(彼ならここでリンクを使用すれば繋がります。リンクさえしてしまえば、距離は関係ないはずですから)


 とういうことは、闇夜の巫女フォンセと一騎討ちになるということ。

 リリィはそう考えると、緊張してきてしまう。


(魔法を防いだら物量で負けてしまう可能性がありますから、上手く回避して接近してください)

「・・・わかりました。アビーさん、あの太陽を破壊したらリンクの魔法使います。私はお母さんの力を借りて、浮遊してあそこまで飛びます」

「お、おう」

「私は風の魔力で方向と速度を制御しますので、アビーさんは攻撃が来たら、私の身体を操作して回避してください。バランスは何とかしますので」

「いまいち要領は掴めねぇが、やるだけやってやるよ」

「お願いします」


 リリィがアビーと作戦を立てている内に、メアの方も準備が終わったらしく、自分が分け与えた闇の魔力の回収に移っていた。


(我々もやるぞ)


 リリィの方もアーシー達精霊が四色の魔力の帯となって、リリィの中に吸い込まれていく。

 すると、リリィの身体から魔力の粒子のような光の粒が溢れだした。


「なにこれ・・・」


 リリィは自分の内から溢れる魔力に驚きつつ、制御を怠らないように注意する。

 少しでも油断すると、暴走してしまいそうだ。


「はぁ・・・はぁ・・・きっついなぁ!もう!」


 近くでは闇の魔力を回収したメアが汗だくになって、文句を言っている。

 やはりメアは魔力の許容量は小さいようだ。それを無理矢理詰めている反動がメアの身体に膨大な負荷を与えているのだ。


「主、急いでください」

「はぁ・・・くっ、わかってるわよ!」


 ナハトはメアの身体を支えながら急かした。


「深淵たる闇・全てを薙ぎ払う・漆黒の奔流となれ」


 メアが詠唱を始めた途端に、その場に闇の魔力の嵐が渦巻き始める。


「ダークネスディザスター!!」


 魔法名を唱えると、メアの頭上に暗黒の太陽の方を向いた巨大な魔法陣が現れる。

 そして、黒い稲妻が陣の中心に収束していき、最後に暗黒の太陽を目掛けて、闇の奔流が迸った。


「四源よ・連なり・全てを浄化する光となれ・数多なる光の星・集まりて一つの光となり・浄化せし太陽となれ」


 メアの横では少し時差をおいて、リリィも詠唱を開始していた。

 闇の奔流は暗黒の太陽の周辺に漂っていた闇の魔力を同じ闇の魔力で吹き飛ばしている。

 向こうも防ごうとしているのか、時折闇の奔流に向かって攻撃がされているが、全てを飲み込む闇の奔流には太刀打ちできていなかった。


「ディバインシャイン!!」


 リリィが魔法名を唱え終わると、頭上に大きな光の球が現れる。


「もっと!・・・もっと集まって!!」


 リリィがそう言うと、大きな光の球が拳ぐらいの大きさまで小さくなっていく。


「何なんだ・・・あれは」

「眩しすぎて何も見えねぇ・・・」


 大きな光は小さくなることで密度が増し、太陽のように輝きが増したのだ。


「メアさん!合わせます!!」

「え?」


 魔法を持続させていたメアが疑問に思った時には、光の球がメアの魔法の中に飛び込んでいった。


 闇の奔流の中で輝く光の球は一気に暗黒の太陽の近くまで流される。


 そして、暗黒の太陽付近に到着したと思ったその時、暗黒の太陽が昼間のような眩しい太陽に包まれた。


 それはまるでいきなり昼間になったと勘違いするほどだ。


 リリィが今回作った魔法は遠距離には向いていない。意識的に操作できても、速度もそこまで早くなく、暗黒の太陽に撃ち落とされてしまう。

 なので、メアの魔法に乗せて近くまで一気に運んだのだ。


「す、すげぇ!!」

「暗黒の太陽が無くなっている・・・」


 アビーとロイスは空を見上げて呟く。

 暗黒の太陽があった場所には何もなくなっており、闇の魔力も霧散し始めていた。


 そして、空を一面に覆っていた結界に亀裂が入る。

 そのまま亀裂は空が割れるようにして、消え去っていった。

 そこから現れたのは久しぶりに見るような気がする青空と本物の太陽だった。


「はぁ・・・はぁ・・・さす・・がね」

「主!!」

「メアさん!」


 それを確認したメアは気力を使いきり倒れてしまう。


「リリィ・・・ちゃん・・行って」

「でも」


 声に力は無いはずなのに、リリィを見つめてくるメアの目はとても力強かった。


「・・・わかりました。アビーさん」

「ああ」

「リンク!」


 リリィはアビーとリンクをして、感覚を同調させる。


「では行きます!フロイト!」


 リリィは魔力を操作しながら魔法を唱えると、宙に浮き始める。

 そして、徐々に高度を上げていく。


「リリィ!お前のことは俺が守ってやる!だから気だけはしっかり持っておけよ!!」

「はい!」

「帰ったら新しいパンツも買ってやるからな!!」

「はい!って何を言ってるんですか!!」

「尻のところ少し破けてんぞ!!」

「そ、そんなの今言わないでください!!」


 バランスを崩しそうになりながら確認すると、確かに破けて穴が開いていた。


「うぅ、スカートで来なきゃよかった」


 リリィはそう思いながらも、空に残る闇の魔力の濃い場所を目指して飛んでいく。


「っ!?」


 リリィは自分の上半身が勝手に捻るような動きをした。

 次の瞬間、リリィの胸の部分の服に一本の亀裂が入り、胸元が露出した。


「え?今のって」


 アビーがリリィの視界から相手の攻撃を見て避けたのだ。

 胸元をかすってしまったのは、男のアビーにリリィの胸を考慮出来なかったからだ。

 リリィはそれをすぐに理解して、バランスを取り、その攻撃が来た方を見る。


 そこには1人の漆黒の闇を纏った女性がいるのだった。

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