少女、霧の遺跡の精霊と
「リリィ、何か声みたいなもん聞こえなかったか?」
「そうですか?私には聞こえませんでしたけど」
「んー・・・気のせいか」
リリィとアビーは霧の遺跡の中を手を繋いで歩いていた。リリィにとってはただの霧でしかないのだが、この霧は魔法的な何かで出来ており、アビーや他の人間だと、方向感覚を狂わされ、入口に戻されてしまうのだ。
なので、耐性のあるリリィがアビーの手を引く必要があった。
「でも、この霧・・・この気配って・・・」
「恐らくはウォーティのものだ」
「ウォーティ?」
リリィの指輪からアーシーの声が聞こえてきた。
「ああ、この霧は水の精霊ウォーティのもので間違いない。暫くこの魔力を感じていなかったので悩んだが、だいぶ近くなって確信を得た」
「近くってそのウォーティって精霊が近くにいるって事?」
「そうだ」
「そいつはどんな精霊なんだ?」
「ウォーティは冷静な性格だ。少し気難しいところはあるかもしれないが、真面目な良いやつだ」
その水の精霊ウォーティが近くなってきているとはいえ、霧で視界が真っ白な中進んでいくと次第に不安も出て来るようになる。
リリィは既に霧の中どこをどう進んだかはもうよく分からなくなってきている。
通路も幅が狭い所、広い所とまばらで、何回も曲がっているのかもわからなくなってきた。
「・・・アビーさん、帰れるかな?」
「俺は方向が分からないから知らんぞ」
「そう・・・ですよね」
リリィは遺跡から外に出られるか分からなくなってきた。
「帰りたきゃ俺が先導すれば帰れるんじゃね?」
普通の人だと入り口に皆戻されていたので、可能性がないわけではないが。
「それって入口が近かったからとかありませんか?」
「それは・・・あるかもな」
「もう結構奥に進んでますよ?それでもし変な罠にでもはまったら」
リリィはそれを想像すると冷や汗が出てきた。
「まぁ、なんとかなんだろ」
アビーは楽観的に考えていた。罠にだけは気を付けようとは考えてはいるが、帰れなくてもなんとかなるとは思っているのだ。
「ま、帰れなくても何日かは大丈夫だ。食料も水もあるしな」
「はぁ、アビーさんが羨ましい」
心配するばっかりの後ろ向きな考えばっかりの自分と違って、アビーは前向きな思考ばっかりなのが羨ましくなってきた。
「ほら、元気出せって」
「っ!?お尻叩かないでよ!」
アビーは後ろからリリィのお尻を軽くたたいてきたのだ。でも、沈んだ気持ちは不思議と無くなっていた。
そして、そのまま歩いていると、次第に霧が晴れて来た。
霧が晴れて見えてきたのは、ドーム状の広い空間の中心に台座の様な物が置かれている場所だった。どこからか水が流れる音も聞こえてくる。
「すげぇな。見ろよ。周りの壁に沿って水が昇っていってるぞ」
「ほんとだ」
よくよく壁を見てみると、水が上から流れ落ちるのではなく、下から上へと昇っていっていた。
「よく来ましたね」
「「っ!?」」
そこに知らない女性の声が響いた。
リリィとアビーは声のした方を見てみると、中心にある台座の上に青色に光る珠のような物が浮いていた。
「久しいな、ウォーティ」
「ええ、お久しぶりです。アーシー」
アーシーの声はウォーティとの久しぶりの再会で少し嬉しそうだ。
「それで、貴方があの時のお嬢ちゃんなのかしら?」
「あの時?」
リリィは首を傾げる。何故ならウォーティの言い方では何処かで会ったことがある言い方だったから。
「会ったことありました?」
いくら思い返しても記憶に無いリリィは直接聞いてみることにした。
「覚えてなくて当然です。貴方はまだ赤子の時ですから」
「そ、そうなんですね」
それでは覚えていなくて当然だ。
「・・・・・ファイリアの力も感じる。そう、貴方は二人と契約したのね」
「はい、訳あってアリアさん、いえ、ファイリアは今ここにはいませんが」
「あの子のことだから自由気ままにやっているのでしょう?」
「あ、あはは・・・」
どうやらアリアの行動はウォーティにも筒抜けのようだ。
「ここには私と契約するために来たのかしら?リリィ」
「はい。後、兵器?のことなんですけど」
「・・・・・・今は見せることもできないわ」
「え?」
「契約はしても大丈夫。でも、私はここから暫くは動けないわ」
「何かあるの?」
いきなり声色も変わったので、気になったのだ。
「最近、霧の結界を抜けて、何か調べている者がいる。そいつらは恐らく兵器か私の力を狙っている可能性があるの」
「あの」
「なにかしら?」
「私は霧の結界?は抜けられたんですけど、他の人も抜けられる人っているのですか?」
「・・・私の霧の結界は光の魔力を持つ者は受け入れるようにしてあります」
「だからリリィは方向が狂わなかったのか」
「それより・・・・・・その男は誰です」
「今さら!?」
アビーが納得したように頷くと、ウォーティは今気が付いたように聞いてきた。
ウォーティは少し抜けていそうなところがあるようだ。
「えっと、この人はアビーさんといって」
「ま、お前らからすればただの人間だ」
「そうですか。ただの『人間』ですか」
ウォーティはアビーを見て、何かを感じ取ったのか少し言葉に力が籠った。
「で、では、その、私みたいに光の魔力を持つ人達が遺跡を調べているということ?」
「いや、リリィ。可能性はもうひとつある」
「・・・闇の魔力?」
「そうだ。光の魔力と対の力だが、闇の魔力も他の魔力に害されづらい。だろ?ウォーティ」
アーシーは同意を求めるようにウォーティに問いかけた。
「そうね。封印が4個の内2個解けてしまった今では、霧の結界を無効化出来るほど闇の魔力が強くなっても不思議はないわね」
「え?ちょっと待って下さい!封印って1個しか解けてないはずじゃ!」
リリィが知っているのはアーシーが担当していた地の封印が解かれたぐらいだ。
アリア、いや、ファイリアの担当の火の封印は、兵器も封印もまだ見つけてすらいない。もし何かあったらアリアがリリィに知らせるはずだ。
それに、さっきウォーティも兵器も封印はまだ解いていないと言っていた。
それで残るのは
「まさか・・・風の封印はもう」
「ええ、残念だけど。闇夜の巫女の力を受け持つ量から考えて、それは確かよ」
リリィの知らない間に闇夜の使徒は風の封印を解いていたようた。
「・・・アーシーの時もそうだけど、封印ってどうやって解けるものなのですか?」
「封印は兵器と結び付いているわ」
「兵器と?」
「兵器は闇夜の巫女の封印を解こうとする者を撃退するために造られたの。それと、時が経つことで封印が解かれてしまった時の未来への対策としてもね」
「で、でも封印が解かれたということは」
「兵器がやられたか、兵器を取り込まれたかね」
「取り込むなんてこと出来るのですか?」
「リリィ、私の時に兵器と戦っただろう。あれは闇の魔力に侵されてしまった結果なのだ」
リリィはその時のことを思い出す。確かに黒狼は少し嫌な魔力を感じていたが、それが闇の魔力だったのだろう。当時はまだ闇の魔力を知らなかったので、判別が出来なかったのだ。
「そういうことだから、リリィとは契約はするけど、暫くはここで兵器の方を見守るわ。私がここにいれば兵器に近付くことは出来ないはずだから」
「わかりました。では契約だけ」
「待ちな!!」
そこへ知らない男の声が響いた。
「それじゃあ困るんだよ」
「そうそう。兵器への扉の封印を解いてもらわねぇと奪えねぇからな」
「貴方達は」
5人の男がぞろぞろとこの部屋に入ってきた。男達は黒いローブに例の漆黒の花の剣をこちらに向けて構えていた。
「あんたら、『闇夜の使徒』のメンバーだな」
「だとしたら?」
「そう・・・貴方達が」
アビーの問い掛けで、この男達が闇夜の巫女の力の使い手とわかった途端、ウォーティの声が響くと同時に、水の魔力が辺りに溢れだした。
「なら、貴方達を消し去れば私の脅威は消えるということですね」
ウォーティの魔力は先程から声を放っている青い光球の周りに渦を巻き始めた。
「水の精霊の力。見せてあげるわ」
「退避!!」
ウォーティは水流を創り出し、男達に放った。
男達はウォーティの攻撃を開始した時には回避行動に移っていたが、1人は水流に呑み込まれ、壁に叩きつけられた。
「くそ!一か所に固まるな!散れ!」
残り4人は四方を囲むように動こうとする。
「無駄です」
次の瞬間、リリィ達の周りに水の膜ができたと思ったら、周りは洪水のように大量の水が現れた。
そして、男達は一網打尽になり、戦闘不能に陥ってしまう。だが、気絶する瞬間に口元がにやけるのをリリィは見逃さなかった。
「ウォーティさん!封印は!」
「それはまだっ!?」
ウォーティが大丈夫と言おうとした時に、地震が起きた。
「ふ、封印が!」
「まさか力を使わせるのが目的だったんじゃ」
「なんてこと・・・私としたことが」
ウォーティの魔力で大きな攻撃をした時に封印に咲いている魔力も使ったのだ。その弱った時を見計らって、闇夜の使徒の他の仲間が封印を解く。そう考えるしかなかった。
「おいおいおい!やばいんじゃないか?」
地震と共に水の音が徐々に大きくなってきている。
「リリィ!契約を!」
「は、はい!」
ウォーティはリリィに青い宝石を託した。それは導かれるようにリリィの指輪に嵌まった。
「私が力を貸します!今教える魔法を使いなさい!」
「っ!?これを・・・」
リリィの頭の中に魔法の情報が流れ込んでくる。
「大いなる水の精・契約に従い・力を示せ」
リリィは今知ったばかりの詠唱を詠うように紡ぎ出す。
「静かなる意志・我が意志に共鳴せよ・水の旋律・アクアメロディナンス!」
「上だ!!」
リリィの魔法が唱え終わると同時にドーム状の天井が大量の水と共に崩れて来た。
次の瞬間、リリィから青く光る水の魔力が溢れだし、辺りへと広がっていく。
すると、崩れて来た天井の瓦礫は共に落ちて来た水に支えられて、空中で止まった。
そのまま水は意志を持っているように、瓦礫をリリィ達がいない場所へと落としていった。
「やはり使えましたね」
「はぁはぁはぁ・・・、結構魔力使いますね。それに上手く操れません」
「いえ、初めてにしては上手いですよ」
リリィは水をそのまま操り、少し離れた場所に集めていった。
「えっと向こうに」
魔力的にきつくなってきたので、リリィは水を自分達に被害がない場所に移して、魔法を解いた。
「今のはどんな魔法だったんだ?」
「水を操るようにする魔法みたいです。魔力の消費が激しすぎて長い時間は出来ないですけど」
「リリィ、力を貸してください。兵器の場所に案内します」
「わかりました」
リリィ達はウォーティの案内で崩れた遺跡を移動していった。
途中、魔物もどこからか入り込んでいたのか、襲い掛かってきたが、アビーが前に出て次々と倒していく。
「なかなか使える男なのですね」
「はい、頼りになります」
「ほら、喋ってないで早く行くぞ」
遺跡が崩れたことで、霧の結界も解けてしまっていた。おかげでアビーはリリィと離れられるので、前衛としての役割をしっかりと務めることができていた。
進んでいくと、まだ壊れていない区画へと出てきた。その先に大きな扉が少しだけ開いているのが見えた。
「あの奥に兵器があります」
「じゃあそこに兵器と『闇夜の使徒』が」
封印が解けてしまっていたのなら、兵器が自分達に襲い掛かってきてもおかしくはない。もしかするとすでに『闇夜の使徒』が兵器を奪い終わっているかもしれない。
「それで、水の精霊の兵器はどんなのなんだ?」
「亀です」
「は?」
「だから亀の兵器です」
「・・・・・強いのか?」
亀を想像して、強いとは思えなかったアビーだが
「防御に関しては物理も魔法も無効化します。攻撃は辺りの水を吸い取り、弾丸のようにして撃ち込んできます」
「強すぎだろ!」
攻撃が効かないのならどうやって戦えばいいんだと思うアビー。
「兵器の攻撃の際に結界が無くなりますから、そこを狙えば」
「結構難しいな」
弾丸の攻撃と聞き、その撃つ時しか攻撃が効ないとなると、かなりやっかいな代物だ。
「動きはどうなんですか?」
「動きは遅いです。要塞をイメージして作ったと聞いてますので」
「それなら障壁を張って攻撃の隙を突く形がいいですね」
「それならもう一つ魔法を教えておきましょう」
「え?」
「この魔法は兵器の結界を破ることが出来る魔法です。先ほどの魔法が使えたのなら使えるはずです」
その声はリリィの指輪に新たに嵌まった青い宝石から発せられている。そして、青い宝石から魔力が発せられてきてリリィを包み込む。
「・・・・あ、これが」
リリィの頭に再び頭の中に魔法が思い浮かんだ。
「これで大丈夫なはずです」
「遅かったな」
そこであの男の声が響いた。
「ナハト・・・」
「やはりまた会ったな。リリィ」
ナハトは扉から出てきたのか扉が開ききっている。
「おい、リリィ。こいつが」
「はい、以前話した『闇夜の使徒』の人です」
アビーはリリィの前に出て、守るようにして剣を構える。
「今回の封印はそこにいる精霊の精でなかなか解けなかったからな。少し犠牲は出たが、目的は達せられた」
「・・・・・・・」
「仲間じゃないんですか!」
「仲間だ。目的達成のために命を捧げる覚悟をしたな」
その言葉を聞いて、リリィは仲間という言葉を同じ解釈をしていないと理解した。リリィにとっての仲間はお互いに守り戦う者のこと。ナハトの言葉では目的を達成するための道具としか聞こえなかった。
「風の封印も解けたことだ。残りはあのアリアという人間ぶっている精霊から聞き出す」
「なんでそのことを!」
「リリィ、お前は邪魔になる」
その時、奥の部屋から地響きのような音が響き始めた。
「この兵器、さっそく使わせてもらおう。お前の相手でな」
ナハトは亀の甲羅と思われるところに飛び乗った。
「アビーさん」
「ああ!行くぞ!」
リリィとアビーはナハトと水の精霊の亀の兵器と対峙するのであった。
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