9:00

 意識を取り戻すと、僕は教会の中にいた。

 耳を刺激しない落ち着いた音楽が、どこからともなく聞こえてくる。

 格好はスーツから、灰色の胸当てにマントの姿に変じており、腰には刀を差している。

 外に出ると、空の高いところで、大きな赤い鳥が飛んでいるのが見える。

 精霊だ。

 いま僕がいる、フェニクアという世界の創造主だそうだ。

 精霊が、人間界へ遊びに行った際に姿を見られたのが、フェニックス、フマ、鳳凰ほうおう朱雀すざくなどとして、各地の伝承に残っていると聞いているが、真偽は不明である。


 僕が人間界から転移して来たのは、クンガという町である。

 規模は、RPGに出てくる小さな町といった感じだ。

 町の役場に行き、町長にあいさつをしたが、町長と言っても、部署違いのきりしょうかいの社員である。

 僕が与えられていた自分の席に坐ると、フェニフびとの女の子が、微笑みながらお茶を出してくれた。


 フェニフびとは、切尾商会がフェニクアを開拓するのを助けるため、精霊が人間を模して生み出した種族であった。

 皆、赤い髪と鳥のような目つきをしている。

 精霊により文字を解することや闘うことを禁じられており、任せられる作業は限られていたが、フェニクアに転移できる適格性をもった人間が少ないので、開拓には欠かせない存在であった。

 ちなみにフェニフびとは精霊から派遣された派遣社員であり、派遣契約以外の仕事をさせると大問題になる。

 労災などはもってのほかである。

 派遣社員なので当然、フェニフびとには時間給が支払われる。

 このコスト管理が、市長や町長など管理者の腕の見せ所だが、まあ、たいていの方は苦労しているようだ。

 

 僕はお茶を飲みながら、フェニクアの地図を見た。

 切尾商会の最大の拠点であるサマルを起点に、北方へ扇状に市町が広がっている。

 ちなみにサマルは、切尾の一族の者がおうらいさんを掘り進めて見つけた大穴から落ち、最初に転移した場所であった。

 精霊の依頼により、切尾商会はフェニクアの開拓を請け負うことになったのだが、人間界からフェニクアに物資は転移できないので、先人たちは、何もないところから世界の開拓をはじめたと聞いている。

 彼らの苦労を想像するたびに、自分は参加してなくて良かったと、心から思う。


 精霊によってサマルと名づけられた都から、切尾商会の社員たちは、北方にむかって開拓を進めている。

 南方に進まなかった理由は簡単で、サマルの南側に山脈が広がっているためであった。

 その山脈の向こうにフェニフびとの国があるらしいが、本当かどうかはわからない。

 いま僕がいるクンガは、サマルから見て最北東に位置する町だ。

 このクンガの先に新たな拠点を作ることになり、僕はその立地を検討する指示を受けていた。

 そのため、獣皮に描かれた地図や集めた資料とにらめっこする日々が続いていたのだが、お偉いさんの中でもどこに新しい拠点を置くかについては意見が分かれていたので、悩ましい仕事であった。

 町や街道の建設にかかるコスト、水源やモンスターの生息地からの距離など、メリット・デメリットをまとめて、自分の案を示さなければならない。

 道の舗装や転移装置の用意は整備部が行うので、彼らを納得させる計画書を出さなければならないので気が重い。

 ちなみに、今、フェニクアには四十ほどの町がある。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る