試合後の通路にて

 アイはご主人様と共に入退場口をくぐると、廊下を自分の控え室に向かって歩いていた。と、別の選手控え室からちょうど出てきた選手と鉢合わせしてしまう。試合場では既に第二試合が始まっており、その次の第三試合に出場する選手が準備のために控え室から出てきたのだ。


 ダリア=サリエル。その姿を見て、アイは立ち止まって声をかけた。


「サリエル様、先日はありがたいご忠告をいただきながら、失礼なことを申し上げてしまい、誠に申し訳ございませんでした。あなた様のおっしゃっていた通りでした。ご主人様の思いを忖度そんたくしたつもりが、まったくの勘違いでございました。己のメイドとしての未熟さを、ただただ恥じ入るばかりでございます」


 試合前、今と同じように偶然廊下でダリアと行き合ったアイは、彼女から忠告されていたのだ。『"出過ぎた真似"だけはするな。配下が思った通りに動かないことは主の不快感に直結することがある』と。


 それに対してアイは『例え勘気をこうむったとしても主人のためになることを為すべきだ』と答えたのである。


 そのことを思い出したアイは自分の浅はかな言動を恥じて謝罪したのだ。


 だが、それを聞いたダリアは、むしろ失笑をかみ殺しながら答えた。


「いや、余の忠告の真意はそこではなかったのだがな。まあ、今回のことは侍女殿にとってもよい経験になったであろうよ。より一層、主のためになるよう励むとよい。それにしても、貴殿の主は余が考えていた以上に『善き主人』であったよ」


 そう言い残すと、第三試合に出場するために入退場口の側にある次試合出場選手の待機場に向かって歩み去っていった。


 それを見送ったアイに、ご主人様が尋ねる。


「今の人は?」


「ダリア=サリエル選手です。次の第三試合に出場されます」


「何を忠告されたんだい?」


「ご主人様に無断で勝手なことはしない方がよい、と」


 それを聞いたご主人様は、少し困惑したような顔になってから、それを誤魔化すように軽く笑みを浮かべて言った。


「俺はアイちゃんが自主的な判断や行動をしても悪いとは思わないけど、最低限、何をするつもりなのかは教えて欲しいな。そうすれば、今回みたいに完全な誤解だってときには止められるから」


「かしこまりました。今後は必ずご主人様にご報告してから行動いたします」


「うん、そうしてよ。あと、すぐに帰ろうかと思ってたんだけど、せっかくだからダリア選手の試合も見ていくかい?」


 それを聞いたアイは、満面の笑みを浮かべて答えた。


「もし、よろしいのでしたら、ぜひ観戦したいのですが」


「じゃあ、観客席に行こうか」


 その笑顔に胸をときめかせながらも、表面上は平静を装って観客席に向かうご主人様と、それに忠実につき従うメイド。


 ちょうど第二試合が終わった所だったので、美少女が首をはねられるシーンは見ないで済んだのだが、迫力のある第三試合を見て興奮したご主人様は、そのまま観戦を続けることにしてしまった。そのため、余りにも凄惨な第七試合を見て卒倒してしまい、アイに介抱されて正気を取り戻すと、ほうほうの体でアイを連れて元の世界に戻っていったのであった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

最強無敵メイドさん 結城藍人 @aito-yu-ki

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ