第4話 本の片付け


 龍太郎が二階に上がるとすでに茅は部屋の中にいた。茅は人通り部屋を見渡し、一人で頷いたり、「なるほど……」と声を漏らしている。


「わかりました」


 茅は龍太郎に振り向き、


「まずは本から片付けましょう」


「本から……? けど、先に売るようと捨てるように分けたし。すでに捨てる方はビニール紐で纏めてあるよ」


「紙袋に入ってる本が売るようですよね。そちらではなく、私が言っているのは捨てる本の方です」


「あぁ」と言って思い出す。椅子と二段ベッドをどうしようかと悩んでいた時に、茅ちゃんが捨てる本を前に何か言っていた。


「龍兄さんがビニール紐で纏めた本は隙間が大きくガバガバです。本の高さもバラバラでバランスも悪く、本を持ち上げた際に崩れてしまいます」


 茅の説明に龍太郎は納得する。

 龍太郎が纏めた本は高さの高いものと低いものとバラバラであり、どの紐も持ち上げたときに拳一つ分以上の空間が確かに存在する。


「本をまとめるなら高さは三十㌢~四十㌢の間が好ましいです。低いと量が多くなりますし、高いとバランスが悪いので。今回は低い方は仕方ないとして、高い方は直してしまいましょう。手本を見せますので終わったら、次は龍兄さんがやってみてください」


 茅はハサミで手早くビニール紐を切断する。次にビニール紐を床に広げその上に本を左右対称に乗せる。三十㌢~四十㌢程度の高さになった本の山を今度は足で上から踏む。

 茅ちゃん曰く、こうすることで本と本の隙間を無くすためらしい。この状態でビニール紐を足の上で軽めに交差させ、足を抜いたら素早く強めに交差させる。

 交差させたビニール紐を中心で交わるように九十度回転させ十字にクロス。本をひっくり返し上から足でまた踏んで、裏から回したビニール紐を端で交差する。


「これで終わりです」


 片方のビニール紐を折り返して輪状に。もう片方のビニール紐の端を上に回し、本に巻き付けたビニール紐の下にくぐらせ全体をまとめる。くぐらせたビニール紐の端を輪に通す。輪のビニール紐の端と輪に通したビニール紐の端をそれぞれ強く引っ張った。


「おお」


 龍太郎は茅の手際に思わず声を漏らす。

 茅が纏めた本の束は、龍太郎が纏めたものよりしっかりと結ばれている。本と紐の隙間は指一本が通れるかどうかの隙間。本の揺れもなく直立不動の姿勢で床に座っている。


「すごいね茅ちゃ……」


 龍太郎が振り向くと、感動する龍太郎を余所に茅はテキパキと腕を動かし、もう一つ本の束を完成させていた。


「はやっ!」


「いえ。そんなに早く、ないです」


 茅は照れ臭そうに答える。


「茅ちゃん、この最後の結びかたはなにかな。あまり見ない結びかただけど」


「あれはですね、かます結びと呼ばれる結びかたです」


「かます結び? ああ。そう言えば聞いたことあるな。確か引っ越し業者が荷物を纏めるのに使う結びかただっけ」


「その認識で合ってますよ。紐の末端同士を結ぶかます結びは、強度が高く解けやすいのが特徴です。荷物を結ぶ際に使いますが、新聞紙や本を結ぶ際にも使えます。手順もそこまで多くはないので、覚えておけば何かと便利ですよ」


「へぇ~、そうなんだ」


 複雑と呼べる程手順は多くなく、他の用途でも使える。覚えておいても損はなさそうだ。寧ろかます結びを本を纏めるのに使うという発想が素直に凄いと思えた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る