第5話 龍太郎の気遣いと茅の気持ち


「次は龍兄さんの番です」


 茅が龍太郎を呼び、ビニール紐の上に本を載せる。「さぁ、どうぞ」とお茶の教室で先生からお茶を差し出された気分で、龍太郎は本の前に移動する。茅がやった手本通りにビニール紐で本を纏め、かます結びも茅の指導のもと龍太郎はなんとか形にして結ぶことができた。茅のものより形も悪く隙間もあるが、初めのものより断然よい仕上げとなっている。


「ありがとう、茅ちゃん。おかげでうまく出来たよ」


「うまく出来たなら、なりよりです。他のも片付けてしまいましょう」


「えっ。そこまで気を使わなくても、他は自分でやってみるよ。茅ちゃんは下で休んでて大丈夫だよ」


「私も手伝います」


「そんな、悪いよ。元々は自分の部屋の掃除なんだから。これ以上、茅ちゃんの手を煩わせるのは、気が引けるよ」


 それに彼女の時間を自分のために使うのが気が気でないのだ、


「気にしなくて良いですよ」


 茅は寂しそうに、顔を曇らせる。


「龍兄さんが私を気にしているのは何となく分かってます。でも、今の家に戻ったところで。誰もいません。私一人です」


「!」


 気がつくのが遅かった。彼女は今一人なのだ。いつも一緒に暮らしていた親もおらず、住み慣れた土地から離れ、知らない土地に来たんだ。

 それは、寂しい決まっている。

 彼女がこうして手伝っているのも、家での寂しさを紛らわしているんだ。


「いや。あの。うん。あー……」


 声を出しても言葉は纏まらず、ぐちゃぐちゃな頭から言葉を絞り出す。


「……茅ちゃん」


「はい」


「そのだね。あれでね。こほん! 自分は、ほら、見て分かると思うけど片付けが下手なんだよ。 本の束片付けても、まだ二段ベッドが残るんだよね」


「?」


「あー、あー。誰か手伝ってくれないかな。この駄目な人を助けてくれる掃除好きな従妹とかいないかなー?」


「……龍兄さん」


 茅は沈めた顔を上げ、


「芝居臭いです。もっと上手く出来ないんですか?」


「人が頭振り絞って一生懸命考えた言葉にダメ出しって酷くない!?」


 頭を抱えて床に座り込む色々と叫ぶ龍太郎。その後ろで、茅はひっそりと笑った。


 ーーありがとう、龍兄さん。


「龍兄さん。さっさと他の本の山も片付けますか。今日中にロフトベッドの解体迄は終わらせましょう」


「……マイペースだね。茅ちゃんは」


「あっ、立ち直りましたか。そっちの山お願いします。私はこちらの山から片付けますので」


「ありがとう。茅ちゃんはゆっくりでいいからね。自分が片付けないと意味がないから」


「はい」


 約二時間程の時間をかけ、本の片付けとロフトベッドの解体が終わり、この日の作業が終了した。


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