⑩ランパード、覚醒。(前編)

「さてアル様、そろそろお時間でございます。ご用意なさってください。……ついでにファスト様、その顔では出歩かないでくださいね。みっともないので。」

「すひまふぇんでひた」

お仕置きタイムが終わり、俺はステージのわきのテントで待機していた。まあ、待機と言っても出番無いけど。出番あってもこの顔じゃ出られないけど。

それはそうと、さっきから俺の周りをランパードがぐるぐると歩き回っている。

「おおん?」

威嚇された。どうやら俺は敵として認識されたようだ。てか「おおん?」って出てきて三コマくらいでやられる雑魚キャラのセリフだろ。仮にもピュリオンナイトの隊長が言ってんじゃねえ。一応ピュリオンナイトは強いっていう設定なんだから。

あきれ返る俺に、さらに顔を近づけて威嚇してくるランパード。

「ああん?」

変わった!威嚇の言葉が変わった!

言葉が変わったということは状況が変化したということ!

これはいい変化なのかそれとも悪い変化なのか!?

「…………ぶち殺す。」

悪い変化だった―――――――――――っ!

ボソッとつぶやくランパードに、動揺を隠せない俺。

やばい、本気でぶち殺される!

スミマセンでしたっ!すみませんでしたっ!もう二度とアル以外の幼女に心を動かされたりしません!だからどうか!命だけはあああああああああああ!




先に言っておこう。

この小説は校長先生のお話記録ノートじゃない。断じて違う。

もう一度言っておこう。

この小説には、校長など一切出てこない!

おい!全国の校長!「え~、」じゃねえんだよ!なげえんだよ!話が!卒業式とかことあるごとに十分くらい話してんじゃねえよ!テメエのせいで倒れる奴が毎年一人はいるんだよ!自分の子供のころを語り始めるんじゃねえ!誰も聞きたかねえんだよ!

……ふう。小学校時代からずっと思っていたので吐き出せてすっきりしました。

さてと。


「まず、え~………で、あるからして~この国の歴史という物は~え~…」


耐えるか………(泣)

そうである。ご察しの通り、この式典、とてつもなく話が長いのである。

ちなみに今話しているのはアルではない。

この国の歴史(要するにアルがどの位偉いのかということ)を語ってる人である。

だがしかし、ものすごく話が長い。どうすんだこれ。

予定的にはこの後、アルの演説があるのだが……。

「うぐうう…。ごはっ……。」

「また一人倒れたぞ―――――っ!」

「各自アウトリガー展開!生命確保ライフセービング急げ―――――――っ!」

「ぐはあああっ!」

「こっちでもか!?くそっ!いそげっ!いそげっ!」

「アルファよりブラボー!至急BP-1に!」

「メディイイイイイック!メディイイイイック!」

「ぐぐぐ……。」

「うわああんおかあさああん!!!」

「どいてろ、ぼうや!…………くそっ!心臓発作だ!AED用意!各班急げ!」

「AED、現着まであと三秒!」

「よし後は任せた!俺はDP-3に向かう!」

「待ってください隊長!本部隊から伝令で…………えっ!?」

「くそっ!どうした!?」

「ま…『魔力がもうない。これ以上の救護活動は困難』………だ……そうで…す。」

「くそがっ!」

「どうします、隊長!?」

「……仕方がない!全員に伝達!以後、各自による独自治療を許可する!」

「で、ですが…。」

「無いものを当てにするな!今は残ったものだけで、やれることをやるだけだ!」

…………うわあ。

なんか熱いドラマが繰り広げられてるよ……。

もうすでに民衆の四分の一くらいが倒れている。救護班はてんてこ舞いのようだ。

まあ何時間も詰まらねえ話を聞いてろって方が無茶だが……。

「え~、で、あるからして~人間という物は~、実に」

ついに人間について語りだしたか。まだまだ続きそうだな。救護班ガンバ。







「で、ある。以上だ!」

「「「「「ワアアアアアアアア!!!!!」」」」」

民衆の大喝采が巻き起こる。その顔はどれも、今まで押さえつけられていた感情を解き放った時のように晴れやかだ。社会の教科書に載ってるフランス革命の絵みたい。女の人が旗持ってわーってやってるやつ。

うん、実に素晴らしくものすごい内容の聞きたくもない歴史の授業だった。

ドームを埋め尽くした観衆のうち四分の三を殺すとは、まさに最強の殺戮兵器だ。

ただ一つネックなことをあげるならば、耳栓をされると無力だということか。

まさに俺みたいにね。

「…………ファスト、さすがに耳栓は失礼だと思うんだが。」

「いやいや、アル、いいか?寝るよりは失礼じゃない。」

「話を聞かないという意味では同等に失礼じゃないか?」

「………………気にするな。それよりお前、次出番だろ?」

「うん、耳栓はしないでほしいな。」

「さすがに……しない。」

「なんだいその間は!?するなよ!?本気で泣くぞ!」

「おk」

「その返事からしてもう信用できないんだが………」

「お、もう出番じゃないか?行って来い、アル。」

「むうう……ごまかされた気がする………」

そう言いつつも、司会者の人に呼ばれたので仕方なく歩いていくアル。

うん、がんばれ。俺は応援してるぞ。

そう思いつつ、その光景を見守る俺。

あわよくば階段でこけないかなあなんて思ってはいないぞ!絶対!

まあ、そんなこともなく、アルは普通に壇上に立つと、

『本日お集まりいただいた諸君!まずは君たちがここにいることに感謝する!』

わああああああ!と観衆の声援。それに交じって拍手や口笛の音も聞こえる。

なんだ、結構上手いじゃないか。これならはしなくてもよさそうだな。

アルは騒ぐ民衆たちを手を立てて静まらせると、演説の続きを始める。

『諸君らも知っているだろう!この国は今、未曽有の危機に陥っている!』

一拍。

『前代国王は暗殺された!私の兄は毒殺され、弟は自殺しているのが見つかった!』

「ちょっ!アル様、それは最重要機密事項で…」

慌てて従者が止めに入る。

―――うん、上手いな。

公然の秘密を肯定することで、民衆に隠し事がないことをアピールする。

しかもどうやら最重要機密だったらしい。こういうのは、ばらす秘密が重要であるほど求心力が高まる。

従者も上手い。止めた後に手でこっそりサインを送っていたから、止めたのはわざとだろう。あえて止めに入ることで、王が民衆の見方であり、秘密を持っていないと思わせることに成功した。

『隠していても仕方がないだろう!もはや公然の秘密だ!』

その意思をくみ取ったアルがすかさず返す。

『単刀直入に言おう!諸君らの力が必要だ!こうしている間にも、状況は日に日に悪化し、このままでは長年恐れてきた事態が本当のことになってしまう!』

アルはそこでいったん言葉を切ると、

『どうか力を貸してほしい!この事態を防ぐために!我々と、我々の子孫たちの、幸せな日々を守るために!―――――――頼む。』

そう言って、アルは深々と頭を下げ、ゆっくりと顔を上げる。


一拍。


静寂の後。

一気に大歓声が巻き起こる。

誰もが手を叩き、歓喜に満ちた叫びをあげる。

それはまごうことなき新国王への祝福だった。

今ここに、次の国王であるアイリス=ロット=アルセイフが誕生した証明であった。

響く拍手と嬌声は雷雨のような音をあたりにとどろかせた。

満足そうにあたりを見回すアルは、ごく自然なそぶりで俺の方を見る。

――――どうだったかな。上手くできた?

――――ああ、成功だ。お前はやっぱりすごいよ。

そう笑い返すと、アルは花が咲いたように笑った。

ああ、やっぱりお前は俺なんかじゃ釣り合わないな。

民衆の惜しむような拍手喝さいを背に、アルが一礼した後、手を振ってステージの階段を降り始める。

………………俺に向かって。

おいちょっと待てなんでこっちに来るんだこんなの打ち合わせにな―――!

い、という間にアルに担ぎ上げられ、ステージに乗せられる。

顔の傷はいつの間にか消されていた。多分口の中で素早く呪文を唱えたんだろう。

ぴょん、とジャンプして自らもステージに飛び乗ったアルは、打ち合わせにない突然のことに困惑する司会の人からマイクを奪う。

アルの意図を察知した従者の人が――――!

『あー、マイクテス、マイクテス。ここで諸君に伝えたいことがある!』

あざ笑うかのように、マイクのスイッチを確かめたアルは――――!



『『『私たち、結婚します!』』』



爆弾発言を、高らかにぶちかまして宣言した。

それと同時、俺の胸元をつかんで引き寄せ、唇にキスをする。

しばし、静寂。

会場中が「え?」という空気に包まれた。

え?ここで宣言する普通?という雰囲気のもと、民衆たちは互いに顔を見合わせて。


……次の瞬間、先程よりも大きな、特大の拍手と歓声が鳴り響く。

今度は、重く、地鳴りのような音だ。

うおおおおおおおおっという、半ば『マジか』的な驚きに満ちた拍手と歓声。

その地響きのような音に答えるため、俺はアルを抱き寄せると、民衆に手を振りながらあたりをぐるっと見渡し、一礼する。

それと同時、拍手が一段と大きくなる。

それを背に、俺とアルはステージから降りはじめた。








その、瞬間。









『―――――――――――――逃げ出したくせに!』

つんざくような悲鳴。

その叫び声によって、会場内は瞬時に静まり返った。

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