⑨真夏の戦場。
さて次の日である。アルの戴冠式である。
この国は結構デカく、この世界の勢力図のナンバーワンかツーあたりにいるので、大変な量の民衆が彼らの新しい王の戴冠式に詰めかけるのは必然であった。
徹夜組は珍しくなく、中には三日待ちとかいう強者もいて、寝袋を持参している人々がほとんどを占めている。
会場に入るための列の途中にところどころ「ここは最後尾ではありません」と書かれたプラカードを持っている人が見かけられ、列はどこまでも続いていた。
しかし、会場(ものすごくデカい教会)は東京ドームほどの広さを誇るので、全員が入れそうである。一応。すっごく人口密度高そう。
会場内外やドームのシャッター前では、三日待ち組の参加者たちの暇つぶしのために手作りの本が売っており、あちこちでそれらを売買しているらしき声が聞こえる。どうやら本を買うと、その本の中のキャラの一人をその場で描いてくれるらしい。それ目当てで何冊も買っている奴がいて――――――――――――
――――――――あれ?どことなくコミケの雰囲気なんだが………!?
心なしか、聞こえてくる音楽も……「夢の中へ」だこれ!完璧にコミケじゃん!
まさか異世界まで来て
驚愕する俺の耳に、さらに追い打ちをかけるようなしゃべり声が聞こえてくる。
「あのスクウェアの新刊見たー?」
「ああ、『糞味噌技術』だっけ?まだ見てない。見に行ってもいい~?」
「いいよ~」
――――――――
完全にコミケじゃないか!
いや、それよりも気にすべきことがある。
『
マジかよ…………この世界にも腐女子って文化あったんだ。
俺、異世界はもっと純真だって思ってたよ………。
軽くショックを受ける俺とは対照的に、
それが新国王に向けられた期待ならよかったんだが、あいにくそうではないようだ。
………
しかし、呆れた顔で民衆を見た俺は、はっとした。
「なっ………なんてきれいな瞳っ………!」
民衆の顔は明るく輝いていた。それはまるで、初めて
そうだ………!そうだった………!俺が間違っていた……!
俺は、いつの間に忘れていたんだろう。
人類皆、エロ本大好き人間だということをっ!!!!!
エロは正義。そんな単純なことすらも忘れていたなんてっ!
己のアホさ加減に、つくづくあきれ返ってしまう。
「くそっ………!俺はっ………!人間失格だっ………!」
激しく落ちこみ、うずくまってしまう。
俺はオタクだと自負していた。だがそれは違っていた。
うなだれ、顔を上げることができない。穴があったら入りたい。
そんなとき。
「「「大丈夫さ。」」」
ぽん、と肩をたたかれ、顔を上げると、たくさんの人が俺を囲んでいた。
「たった一度の過ちぐらい、すぐに忘れてやるよ。」
「そうよ!私たち、みんな同じでしょ!」
「そうだ!俺たちは、エロ本大好き人間なんだ!」
「そうだ!」
「その通りだ!」
「気にするなー!誰にでも間違いはある!」
「み……皆………!」
人々が、口々に俺を慰めてくれる。みんな、ありがとう………。
「気にすんな!俺たちは仲間だろ!?」
「そうよ!さあ、一緒にエロ本買いに行きましょう!?」
「俺もおともするぜ!」
「皆………!ありがとう!俺、俺、エロ本が好きだああ――――――っ!!!!」
全力で叫ぶ俺。
それと共に、うおおおおっという地鳴りにも似た歓声があたりを包む。
「みんなっ!エロ本買いに行くぞ―――――っ!」
その俺の声が引き金となり、民衆がそれぞれのお目当てのサークル、否、スクウェアへと殺到する。俺も『至高のロリ』と書かれたスクウェアさんの列の最後尾に並ぶ。
こういうイベントって、列に並んでる時も情報交換とかがあって楽しいんだよなあ…
と、思うが早いか、肩をポンポン、とされる。
「もしもし、すみませんが。」
そうそう、これこれ!こんな感じだ!俺もちゃんと答えないと!
俺は振り返って、
「はい!なんでしょう
「………何をしてるのかな?
直後、アルによる鉄拳制裁が幕を開けた。
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