第4話 第七車両

 ギイギイ。

 連結部まで来ると、ギイギイと音がする。

 ギイギイ。

 ギイギイ。

 定期的に響くそれは、嫌な予感を導いていた。例えば、首を吊った人が揺れている音。桜に実った大きな果実のように。

 ギイギイ。

 わたしがためらっていると女の子は「えいっ」と扉を開けた。

 視界が開けた。あったのはブランコ。それも怖いくらいの速さで、こがれている。

 乗っているのは男の子。公園とランドセルの似合いそうな男の子だ。

 びっくりする程の、遊具とは思えない勢いで半円を描いている。そのブランコの両端は吊り輪へと繋がっていた。

 わたしが声をかけようとする前に男の子が

「お客さん?」

 次いで女の子が

「そっ、まだ来たてホヤホヤ。 ちょっとそこ通してくれる?」

「いや、ダメ。ブランコで回転しなきゃ」

 わたしは堪らず

「落ちちゃうじゃない。そんな危ないことは止めた方がいいよ。お父さん、お母さんはどこ? 」

 男の子は、つまんないの、って顔をして、

「母さんも父さんもいないよ。ここにはいないんだ。それに、マッタク、何も分かってない。オネエチャン。今の時代、回転だよ。カイテン。一回転すれば、 二、三車両くらい軽く飛びこせるんだ 」

「回転?」

 女の子は毅然とした顔で

「この子は何をやっても回転、回転。だからいつまでたっても子供のままなのよ」

「なんだって! この植物マニアめっ!」

「いい? 通してくれたらカボチャのカレーをごちそうしてあげる。でも、そうじゃなかったら、あんたの言う植物でブランコごと壊しちゃうんだから」

 ポケットに手を突っ込む。

「やっ、止めろよ! 見さかいも無く使っちゃダメだ、そんな力 」

 その声には必要以上のアクセントが込められているように思えた。

 男の子はブランコをこぐのを止めた。惰性でギイギイする。

「カボチャのカレー、約束だよ」

「うん」

 と言うと、女の子はその隣を跳ねていった。わたしは突然の展開に飲み込まれるままだった。

 言いそびれたことがある。すれ違いざまに口にしようかと思ったが、やっぱり止めた。

 ねぇ、一緒に車掌室へ行かない?

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