第6話

「薬医学の奴らに聞いたら、今度はクリュノ草原に向かったとの事だ、そう遠くはないがとにかく手分けして探すぞ!見つけたら発煙筒で合図して城に連れて帰ってこい!」


零々は苦労人タイプだな、と思いながら、私もある程度の装備をして城を出る。クリュノ草原か……。多分、ハナは知らないと思うんだ。あの草原一帯、ガルネ・バトラ盗賊団の縄張りなんだよなぁ。


絡まれる前に連れて帰らないと、あいつら面倒臭いしなんて考えつつ、草原へ続く西門に着いた。


「ツキ、お前東門から行け。」


「……なぁ朝霧、何で側近になったんだ?」


はぁ?と素っ頓狂な声を上げてしまう。こんな時に、何を言い出すのかと。


「月給が物凄くいいから。金だよ。私は野良だ。金で動くのは当然だろう。」


「本当なんだな、金の為なら何でもする、最強にして最恐の女野良<朝霧>ってのは。」


「そんな風に言われていたなんて知らなかったよ。私は生きる為に、生きていく為に野良になったんだ。なりたくてなった訳じゃない。好きで強くなったわけでもない。その辺の、ヤンチャ上がりで仕事が無くて野良になったヤツらと一緒にはしないで欲しいね。」


淡々と、そこに特に深い感情は込めずに。真顔で、ツキを見つめて言い放つと、言葉を失っていた。


「今はあの優秀な問題児を連れ戻す事が仕事だ。こっちからは私が行く、ツキは東門から行って探せ。」


「……なんか、ごめん、な。」


「謝るような事を言ったのか?ほら、早く探せ。この草原にいる盗賊団は厄介だ。絡まれる前に連れ戻すぞ。」



ツキの背中を叩いて急かし、私も西門から草原へ出てハナの捜索にあたる。

まずは草原を見渡せる場所を探すか。そもそも薬草なんてこの草原のどこにあるんだ……全部同じ草じゃねーか。


見渡す限り草原、そりゃそうだ。私が西門を選んだのは、西門から5キロ程の所にガルネの拠点地があるからだ。私とガルネは、そこそこ古い付き合いなので、万が一の備えというやつだ。


「ハナー、いたら返事しろー。」


ここ数日雨が降っていたらしく、所々ぬかるんでいる。こんな所で襲われたら戦いにくい事この上ない。


と。桟橋の向こうの、崖の麓にいるではないか。うちの問題児が!!!


「ハナー!!!」


「あれぇ?朝霧だ!今日はお休みって言ったじゃん、どうしたの?」


呑気に、薬草なのだろう、草を毟っている。いや、収穫しているのだろうか。


「またアンタがいなくなったって収集かかって、探しに来たんだよ。頼むからさ、どこか行く時は必ず誰かを連れていくようにしろ。私でもいいし零々でもカナデでもツキでも、誰でもいいから。とりあえず帰るぞ。」


発煙筒をあげて皆に知らせ、ハナ、と少し強く呼ぶと。はぁい、と不満そうに返事をした。

ハナの手を握って城の方角に体を向ける。が。


「よぉ、なんだ育ちの良さそうなお坊ちゃんだなぁ?俺たち盗賊なんだわ、金目のものを置いていきな。」


ほらー。やっぱりねー。いると思ったよー。そして下っ端は私の事を知らないと見た。はぁ。


「ガルネの一味だな?ガルネに伝えろ、<朝霧が王子の側近をしている、王族に手を出すなら容赦しない>とな。」


「おい小娘、何で頭の名前を知ってるんだ。」


「うるせえ雑魚が。あいつとは古い付き合いなんだよ。金目のものは勿論渡さないし、力尽くでと言うなら、加減なしに相手になってやる。その後でガルネにたっぷりと仕置してもらうんだな。」


私に手を出すということの意味を知れ、そう付け加えて、腰に下げている愛刀の長曽祢虎徹(レプリカ)に手をかける。


「ハナは下がってろ。私の間合いの少し後ろから動くな。」


「はーい、頑張れ朝霧ー!」


呑気な王子様だ。

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