第5話

結果から言うと、零々との手合わせは剣術は互角、若干私が押していたという所で、体術はやはり力の差で後少しのところで負けた。


「朝霧は強いね!俺いい人材拾ってきちゃった!?」


「犬猫人は簡単に拾うなと言ってるだろうが!!」


零々も一々怒って疲れないのだろうか、当の本人は全く気にしていない様子だけど。


「今、俺の護衛は交代制でやってもらってるんだけど、零々とカナデがペアだから、ツキとペアでやって?因みに今日は零々とカナデの日だから、お休み。もし生活する上で必要なものがあれば城下で買い物してきていいよ。」


「分かった。着替えとか買ってくる。武器屋はあるか?」


「質のいいものは王室武器屋に頼んだ方がいいと思う。」


「そうか。じゃあ私は少し城下を歩いてくる。この国に来たことは何度かあるけど詳しくは無いんだ。」


4人の側近が常に全員そばにいる訳では無いのか、と少し安堵した。人と関わることから長いこと逃げてきたから、馴れ合いや世間話といった類が苦手なのだ。


かと言って、一匹狼になるわけにもいかない。最低限のコミュニケーションをとって、最低限の付き合いでいいだろう。


金に不自由している訳では無いので、少し多めに持って城を出た。城下はかなり賑わっていて、アルシスはそれなりに栄えている国なんだと実感する。


服屋に入り、任務に支障が出ないようなデザインの服を選んでサクサク買う。私は優柔不断ではないので、買い物はさっさと済ませてしまいたいタイプなのだ。

黒の七分袖のトップスは夜、目立たなくてとても便利だし。カーキ色のパンツも森で目立たない。お洒落なんてものは私とは無縁である。


「朝霧!!朝霧っ!!」


出店で買った串焼きを食べながら歩いていたら、カナデが汗だくで追いかけてきていた。何事だ。


「やっと見つけた!!すぐ城に戻って、またハナがいなくなった!」


「は?」


「悪いけどこれ、ほぼ毎日だから休みなんて無いと思って……」


信じられない。私が仕えてしまった王子様は、とんだアホで無鉄砲で、無防備で、危機感の無い、優良問題児だったようだ。


「あの問題児な王子様は、何でそんなに1人で出かけて迷子になるんだ?」


「ハナは、薬医学部隊の総責任者でね。薬の調合も自分でしてるのよ。それで、薬草が無くなると、採ってくるね!と言って出ていく。つまり、毎日薬草を探しに迷子になりに行ってんのよ。ほんっと手のかかる子だわ!」


「薬草探しに、ねぇ。ハナに方位磁石位持たせたら?」


「あの子方位磁石の見方、何度教えても分からないのよ。」


「じゃあもう鈴でもつけとけ……」


カナデは苦笑いして、一緒に城に向かった。


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