第18話 急襲

 クレアの部隊は先陣を切った。

 追撃をしていた貴族軍は敵の突如の反転攻勢に驚き、戦闘布陣を敷く事が出来なかった。クレアの部隊はその隙を突いて、敵勢に噛みついた。

 貴族軍の弱点とも呼べる練度の低さはここにきてクレア達に味方した。

 戦力の隙間に飛び込んだクレア達は周囲を全て敵という状況で全ての火力を放った。

 まともに戦闘準備も出来ぬまま、戦闘になった貴族軍の兵士達は右往左往しながら、突然の銃撃に次々と倒れて行く。

 仲間が倒れると、自ずと不安と恐怖から敵兵は浮足立つ。

 将官が怒鳴り散らし、部下を戦闘へと向かわせようとする。だが、クレアはそれを許さない。彼女の部下達には優先的に将官や機関銃手を撃つように命じている。彼女の部下達はこの状況でも冷静にそれに従った。

 貴族軍の将官は指揮をする素振りを見せただけで狙われ、命を落とした。

 指揮官を失った兵士達は更に混乱し、一部が逃げ始める。

 逃げ出す兵士によって、貴族軍は更なる混乱に陥る。

 最前線の状況が混乱に陥ると、後方に控える指揮所への情報も錯綜する事になる。

 確認不足の情報やデマに指揮官や参謀の頭は混乱した。

 「馬鹿な。敵がこうも簡単に反撃に転じるはずがない。ただの足止めだ。蹴散らせ。逃げる兵士は片っ端から処刑しろ。敵前逃亡だ!」

 指揮官は伝令に怒鳴る。伝令は慌てて、馬へと飛び乗り、前線へと向かう。

 だが、それでは遅かった。

 クレアの部隊は貴族が居るだろう敵の中枢へと一気に向かう。

 銃声と砲声が鳴り響く戦場。

 混乱する敵兵はクレア達を前にして、敵か味方かの識別すら出来ない。

 勇猛果敢に尖兵の名乗りを上げた貴族、ポル男爵はこの事態に唖然とした。

 敵に追い付き、片っ端から殲滅する。そのつもりでいた彼だったが、突如の反撃に成す術なく、混乱に陥り、現況がまったく見えないのである。

 「報告・・・まともな報告は無いのか?」

 彼は部下を叱責する。だが、そんな事態では無かった。

 弾丸が彼の乗る馬車に命中したのだ。

 「う、撃たれた。敵が間近に迫っているのか?親衛隊はどうなっている?」

 彼の間近には100名の親衛隊が居た。

 「急襲を受けて、反撃をしています。だが・・・かなり不利かと」

 側近が興奮した様子で叫ぶ。彼も手に拳銃を持ち、いつでも戦えるように身構えていた。

 「くそっ・・・私の魔法で皆殺しにしてやる」

 ポル男爵は杖を手にして、馬車から降りようとするが、側近がそれを遮る。

 「危険です。敵も味方も解らぬ混戦状態・・・魔法を使えば、味方にも損害が出ます」

 「ふざけるな。平民が多少、死んだところ、問題などない。むしろ、ここまで噛みついた敵を皆殺しにするチャンスだ」

 ポル男爵は遮る側近を突き飛ばし、馬車から飛び降り、杖を振るう。

 「一気に仕留めてやるぞおおお!」

 ポル男爵が呪文を唱え始めると急激に周囲の温度が下がる。彼が得意とする氷魔法の影響だ。彼は氷の刃を多量に作り出し、空から降り注ごうとしているのだ。それをやれば、広域に氷の刃が降り注ぐ。それはかなりの力を持つ魔法であった。しかし、同時に戦場で戦う味方の将兵にも降り注ぐ。それで多くの味方も傷を負う事になるのは間違いが無かった。

 「おやめください!味方の損害が大き過ぎます!」

 突き飛ばされ、倒れた側近は叫ぶ。彼はその魔法の威力を知っている。そして、その魔法があまりにも広範囲で無差別に攻撃をする事も。だが、それを無視して、ポル男爵は呪文を唱え続ける。空には暗雲が立ち込め、その中に空気中の水分が氷、刃の形へと成ろうとしていた。

 クレアも魔法計により、魔法攻撃が始まろうとしている事を悟った。全員に対魔法攻撃準備を指示する。だが、どんな魔法攻撃が来るのかまでは解らない。一気に貴族を殺せなかった事を彼女は後悔した。通常であれば、これだけ混戦すれば、大規模且つ、広域な魔法攻撃は来ないのだが、まさか、使ってくるとは思わなかったからだ。

 危険だった。相手は味方も含めて、魔法で殺すつもりだとクレアは感じた。

 ポル男爵は魔法を放とうとした。

 その時、銃声が鳴り響く。

 ポル男爵は一瞬、動きを止めた。彼は自らの体に与えられた衝撃に驚き、胸に手を当てた。血がべっとりと手に着く。

 「な、なんだ・・・・」

 彼は背後を振り返る。そこには拳銃を構えた側近の姿があった。

 「男爵様・・・申し訳ありません。もうこれ以上、味方が死ぬのを見たくないのです。我々は降伏いたします」

 彼はそう告げて、再び、引金を引いた。


 クレアは魔法計が突然、針が下がるのを見た。

 そして、突如として、部下が叫ぶ。

 「白旗です!白旗が上がりました」

 部下の言葉にクレアはそちらを見ると、敵勢の中から高らかに白旗が上がっていた。

 「戦闘中止!」

 敵勢からの攻撃はすでに止んでいたので、クレアも戦闘を中止させた。

 敵勢から白旗を持った老齢の男が出て来た。彼はポル男爵を撃った側近であった。

 「我々、ポル男爵軍は降伏する。総員、武器を手放せ!今後の指示は彼等に委ねる。下手な抵抗はするなよ」

 側近の言葉に敵兵達は素直に従い、手にした銃などの武器を手放した。

 クレアは側近に向かって尋ねる。

 「そのポル男爵はどこに?」

 「すでに死にました。首が必要ならあそこに転がってます。勝手に撥ねなさい」

 側近が指差す方に担架に乗せられた男の死体があった。

 「あんたが殺したの?」

 クレアの問い掛けに側近は静かに俯く。

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Gun & Magic 三八式物書機 @Mpochi

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