第17話 反撃

 ロイスを連れたクレアの部隊は最速で逃げ切った。

 彼女の部隊はそのまま、安全圏へと到達し、待機した。

 クレアは部下数人とロイスを連れて、この地区の最高指揮所へと向かった。

 目の前にボロボロになったロイスを放り出された現地最高指揮官の少将は驚くしなかった。

 「貴族を生け捕りにしたのか?」

 そう尋ねられて、クレアはロイスを踏みながら答える。

 「安心してください。手足も口だって、封じてますから、魔法は使えません」

 「いや・・・しかし・・・この状況で・・・」

 「こいつを捕獲すれば、敵の気勢は削がれるでしょう。反撃なら今です」

 「反撃と言っても・・・こっちもかなり手痛くやられているからなぁ」

 「何を言っているんですか?チャンスを逃せば、この戦線は終わりますよ」

 クレアに強く言われて、少将は深く考え込んだ。

 「解った。作戦を練り直す。時間をくれ」

 「解りました。それで・・・こいつはどうします?」

 クレアの言葉に踏まれたままのロイスは涙目で少将を見上げる。その姿は捨てられた仔猫が拾ってくれる人を見上げるような姿だ。その姿にさすがの少将もバツの悪そうな顔をする。

 「処置に困りましたか?では私が始末します」

 クレアは腰から拳銃を抜いた。そして、躊躇なく、ロイスの頭に銃口を向け、引金を引こうとした。その時、慌てて、少将が彼女を止める。 

 「ま、待て。貴族の子弟なら、交渉の役に立つかもしれない。私が預かる」

 「左様ですか」

 クレアはつまらなそうに拳銃をホルスターに戻し、ロイスを軽く足蹴にして、その場から立ち去る。

 彼女が立ち去った後、少将の周囲に居た者達は「鬼」だとか「悪魔」だとかと声が聞こえたが、少将は一言、「こいつをしっかりと監禁しろ。魔法が使えないようにな」と命じるだけだった。


 部隊に戻ったクレアは食料と弾薬の補充を受けている最中の彼等を眺めながら、今後の事を考える為に分隊長達を集める。

 反撃が始まるだろう事を彼等に伝えると彼等は驚いた。分隊長の1人が驚きの余り、「この状況でですか?」と思わず声が出てしまう。

 確かに、全体的に大きな損害を出しており、クレアの部隊も僅かばかりだが、被害も出しており、更に消耗していた。だが、クレアはそんな彼等を嘲笑うように言う。

 「敵は追撃に入っている。確かに、戦力的に大きな損失を出したが、全体としては敵とは互角だ。カウンターを当てるように反撃を開始すれば・・・敵を壊滅させられるだろう。そうすれば、あの中に混じっているだろう貴族達を一網打尽に出来る。我々はここで大戦果を挙げ、貴族側に大きな損失を与えるのが目的だ。残っている貴族は元々逃げ腰だったような輩だ。それほど、大した魔法も使えないのだろう。恐れる必要はない。だが、ノロノロとしていれば、こちらが包囲殲滅される。今回の作戦は速度が大事だ。いいな」

 クレアの言葉に分隊長達は困惑気味だったが、納得したように部隊に戻っていく。


 クレアは自分のトラックに戻った。中ではカメラを弄るシエラと彼女のお守りをするレオーネが居た。

 「広報活動は出来ているかしら?」

 クレアは開口一番、シエラにそう尋ねる。そうするとシエラは机の上にある書き掛けの原稿を見せた。クレアはそれを手に取り、読む。

 「なるほど、良く書けてるわね。あなた、思ったより勉強が出来たみたいね」

 するとシエラは『当然よ』と小型の黒板にチョークで書く。

 「あとは写真よ。まともに撮れてるの?」

 シエラは少し頭を捻った。さすがに貴族でもカメラを触った事があるのは僅かだ。まだカメラ技師がカメラを操作するイメージがある時代だ。カメラは高額な上に操作は難しい物と認識されていた。シエラに渡したカメラも報道用に小型化された物ではあるが、操作は熟練の腕を要する物だった。

 「もうすぐ戦闘が始まるわ。かなり難しい戦いになる。レオーネはシエラをしっかりと護衛して、万が一の時は部隊から離脱して、安全を最優先に」

 クレアはそう言うと、レオーネが不安そうに尋ねる。

 「今回はかなり危険な任務ですか?」

 「戦力的には拮抗している上に相手の貴族数が未知数。それに勢いがついている相手を叩くのだから、危険過ぎるわね。正直、この子を連れて、行くわけにはいかないが・・・さすがに、何処かに預けてってわけにもいかなくてね。レオーネ。この子の命はあんたに掛かってる。子守りとしての役目をしっかりと果たしなさい」

 そう言われてレオーネは不服そうな顔をする。

 「別に子守りをする為に志願したわけじゃないですけどね」

 「ふん・・・それも仕事よ。命令を守るのも仕事よ」

 そう言い残すと、クレアはトラックから出て行った。

 

 すでに全部隊には反撃の準備が始まっている。クレアも部隊全体を再編成と補給を命じ、部隊は臨戦態勢にあった。

 「戦力は定数の9割。補給は充分。戦えるわね。多分、私達が一番槍になるわ」

 クレアは傍に居る参謀の曹長にそう告げる。

 「マジですか?さっきもかなりヤバかったですよ?」

 「もう一度、ヤバい橋を渡るのよ。調子に乗っている敵の鼻っ頭を叩いて、混乱させる。相当な一撃が必要だから、こちらの損害もかなり出るわ」

 「最初からそう言われると、萎えますぜ」

 「男なら、こういう時に意地を見せるのよ。兵を鼓舞しなさい。勝つわ」

 クレアは笑いながら、カービン自動銃を担いだ。

 そして、後方の総司令部から作戦開始を知らせる信号弾が打ち上げられた。

 

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