第15話 貴族軍の反撃

 革命軍の捕虜を連れて、ザラークへと帰還するロイス。

 ザラークにある城では彼の功績を讃え、宴が開かれた。

 ロイスは父に褒められ、上機嫌だった。

 珍しく酒を煽り、大笑いをした。

 

 クレアは偵察が戻って来ない事で、敵との遭遇を理解した。

 「一人も戻らずとはな・・・偵察の任務を何だと思ってるんだ?」

 クレアは不機嫌そうに副官に言う。彼は苦笑いを浮かべるだけだった。

 偵察に出した兵がどうなったかを論じる事など無い。無論、彼等が捕虜になっているとも考えない。仮に考えたとして、彼等を救出する為にどれだけの損害が出るかを考えれば、論じるだけ無駄だからだ。

 「さて・・・偵察に失敗したわけだが・・・簡単に偵察部隊が全滅した程度に敵は偵察を出しているのか・・・それとも・・・」

 クレアの言葉に副官は訝し気に返事をする。

 「それとも?」

 「貴族が混じっているかよ」

 「貴族が偵察を?」

 「可能性はあるわ。あそこには貴族が集まっている。貴族の中の序列において、下っ端なら、偵察みたいな事でもやらされる輩は居るんじゃない?」

 「なるほど・・・下っ端でも貴族様って奴ですか」

 「そのとおり・・・厄介ね。貴族がどれだけ居るか・・・それを知る為にも敵の捕虜が要るわね」

 「偵察隊を再び出しますか?」

 「えぇ・・・今度は私も出るわ」

 クレアは短機関銃を片手に立ち上がる。それに驚く副官。

 「じょ、冗談は止してくださいよ。指揮官自ら、そんな危険な任務に」

 「慣れてるのよ」

 そう言い残すと彼女は颯爽と天幕から出て、兵舎となっている天幕へと向かう。

 「ドロス軍曹!偵察に出る。手練れの兵士を5人。用意しなさい」

 天幕の入り口を開いたと同時に彼女はそう告げる。あまりに唐突の事に呼ばれたドロス軍曹は咥えていた紙巻煙草を落とす。

 「た、隊長・・・そんな急に・・・」

 「時間が無いのよ。あんたたちも戦闘になって、貴族達と真っ向から戦いたくないでしょ?」

 「そ、そりゃあ・・・そうですけど」

 「じゃあ、すぐに支度をさせなさい。5分よ」

 そう言い残すとクレアは外に出て行った。


 5分きっかりでドロス軍曹は兵士を集めて、クレアの前に整列をした。

 「よし。ご苦労。これから敵の捕虜を獲得に向かう」

 それに動揺する兵士達。

 「捕虜を捕るんですか?・・・それは難しい話を」

 「敵の内情を知るには必要な事よ。総攻撃の時間が迫っている。遊んでいる暇は無いわよ。それでは出発する」

 クレア達は即座にザラークへと向かった。


 宴の終わったザラークではこの勢いを攻撃にと声が上がり、その勢いに任せて、攻撃が決定された。これは籠城を決めているだろうと思っていた革命軍の予想を大きく上回る事であった。

 ザラーク周辺で敵の偵察部隊を襲う予定だったクレア達はザラークの変化に気付いた。城門が開けられ、敵の部隊が次々と出て来たのだから。

 双眼鏡でその様子を眺めるクレアは苦虫を噛み潰したような表情になる。

 「これは・・・捕虜とかって話じゃないわ。偶然とは言え、敵の進軍の瞬間を見られただけ、上出来・・・すぐに戻るわ。部隊を移動させないと・・・こっちが不利になる」

 クレアは慌てて、来た道を戻り始める。


 総攻撃を前に準備をしていた革命軍はザラークから敵が討って出るとは想定せずに居た。その為、警戒の部隊もあまり配置されず、配置されていた部隊もあまりの静かさに油断をしていたのか、警報を発せずに全てが全滅をした。

 勢いに乗る貴族軍はそのまま、待機をしていた革命軍主力を急襲した。

 貴族の放つ火炎魔法が一瞬にして、歩兵部隊を燃やし尽くす。

 数多くの貴族が放つ魔法は革命軍に大打撃を与えた。

 不意を突かれた革命軍は陣形を乱しながら、突撃してくる貴族軍に蹂躙されていく。

 夕刻近くに燃え上がる草原は空を茜色に染めた。

 クレアは部隊をいち早く、後退させたため、無傷で後方に移動させる事が出来た。それでもいつ、貴族軍が迫って来るかは分からない。

 馬車の中でシエラはその光景をカメラに収めていた。

 「こんだけ揺れてたら、ブレブレの写真じゃない?」

 レオーネが呆れたように言う。それでもシエラは飽きずに写真を撮っている。

 その隣ではクレアが魔力計を眺める。針はさっきから振り切れそうだ。

 「こんだけ魔力をバカスカと使ったら、あと半刻もしない内に使い切るわね。まぁ、その間にこっちの部隊が壊滅すると思うけど」

 「そんなもんですか?」

 レオーネは気持ちが無い感じに聞き返す。

 「だから、私達は逃げるのよ。この戦いは終わりよ。理由は不明だけど・・・あんな急激に動きを変えるとは思わなかったわ」

 「しかし・・・私達だけで逃げ出して良かったんですか?」

 「仕方が無いわ。連絡する暇も無かったし・・・それに逃げてるわけじゃない。後退して、敵の進撃を遅滞させるために移動しているだけよ」

 「遅滞ですか・・・敵は進撃を続けるんですか?」

 「多分、それは無いわね。だから、こっちは口実よ」

 クレアは軽く笑った。

 

 貴族軍は猛攻勢を続けた。

 貴族達は魔法を乱れ打ちし、革命軍を殲滅した。

 圧倒的な勝利だった。

 魔力素子が無くなり、魔法が放てなくなった時、そこに残ったのは貴族軍だけだった。

 その中にはロイスの姿もあった。

 彼もあらん限りの魔法を使い、革命軍の3個小隊を壊滅させた。

 彼の前には革命軍の捕虜が並ぶ。

 「はははっ!勝ったぞ!勝ったぞ!」

 ロイスはワインを片手に喜びを叫ぶ。

 「祝杯だ。見せしめにこちつらを殺せ!敗者に死を与えるのだ!」

 その一言で銃声が重なった。

 飛び散る血を前にロイスは更に高笑いを続けた。

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