第14話 新たな戦い

 進軍を始める部隊は貴族軍の最大拠点であるザラーク市であった。

 古代よりある古い街で、長大な城壁によって、守られていた。

 貴族軍はここを拠点にして、革命軍への反撃の準備を進めていた。今回の作戦は敵の反撃作戦を挫く為の重要な作戦である。

 参加する部隊はクレアの所属する部隊を含めて、2個師団。

 拠点を攻撃にするには戦力が足りないが、現状でここに集結させられるのがこの数であったに過ぎなかった。

 かなり無理のある作戦ではあったが、貴族軍が準備を整える前に大きな損害を与える事が大事だと決行された。

 

 クレア達は順調に目的地へと向かった。

 カメラの扱い方を理解してきたシエラは楽しそうに行軍の写真を撮っている。

 クレアはそんな彼女の姿を眺めながら、思った。これまではあまり人前に出さないようにしていたので、きっと、彼女自身も相当に退屈していたのであろうと。

 

 これだけ大規模な部隊の移動は当然ながら、敵に察知もされ易い。

 貴族軍は敵を探る為に金をバラ撒き、行商人などから逐一、情報を手に入れていた。

 ザラーク市の領主であるマイバラッハ卿は革命軍が迫っている事に苛立つ。

 「こちらから討って出るというわけにはいかないのか?」

 彼の提案に参謀達は困惑する。

 「確かにここには戦力が集まっています。しかしながら、得られた情報からして、戦力はほぼ、同じかと。だとすれば、守りに徹した方が良いかと思います」

 その言葉にマイバラッハは憤怒する。

 「たかだか、平民風情に何を言ってやがる。こちらには貴族が14人も居るのだぞ?それで勝てぬと言うか?」

 「相手は貴族相手の戦いを続けてきた連中です。どれだけの貴族が犠牲になったかはお知りでしょう?」

 参謀長に言われて、マイバラッハは更に激昂する。

 「解っている。だが、何もせぬのは性に合わない。グレイスのところのロイスに偵察に行かせろ。隙があれば、敵を倒しても構わない」

 マイバラッハが指名したのは自らの甥にあたる男であった。

 まだ、15歳になったばかりの若者であった。

 「僕が・・・偵察に?」

 ロイスは唖然とした。

 そもそも彼は戦争などしたくは無いのだ。こうして、集められたのも本家であるマイバラッハ卿の命令だから仕方がなくであり、何かあれば、すぐに逃げ出すつもりでもあった。

 「若様、これは名誉でございます。上手くすれば、一番槍の功績をお家に持ち帰れるかと」

 従者の1人がそう告げる。それは彼にはとても迷惑な事であった。

 普段は詩を嗜み、平穏な日々を過ごす事が大切だと思って、生きて来た彼にしてみれば、このような野蛮で危険な事は望まぬ事であった。

 しかしながら、貴族として生まれたからには平民の反乱を魔法で抑えられないようでは意味が無かった。その為の訓練だって、幼少期から叩き込まれているのだから。

 「解りました。出陣します」

 かつて、先祖が国王から貰い受けたと言う時代遅れの甲冑を身に纏い、彼は馬に跨った。

 

 クレア達は目標であるザラーク市の北東10キロの地点にキャンプを作った。

 「さて・・・敵の規模を知りたいわね。偵察を出して、調べるか」

 クレアは双眼鏡で遠くに見えるザラーク市を眺めていた。

 「偵察隊を出しますか?」

 新たに参謀に着いたラット少尉がクレアに尋ねる。

 「あぁ、そうしてくれ。ザラーク市の戦力と周辺の警備、偵察の状況が知りたい」

 「了解です。2個班を作り、送り込みます」

 「あぁ、解った」

 クレアの部隊は規模が大きくなり、クレアだけでは全てを動かせない。中隊本隊で出された命令にぶら下がる3個小隊が動くのだ。

 「伝令です」

 若い兵士がやって来る。彼は伝令用の通信筒をクレアに渡す。これは1メートル程の長さがある金属製の筒でこの中に命令書などを入れて、伝令に持たせる。筒の蓋の部分には封が出来るようになっている。クレアは封を切り、蓋を開く。中には一枚の命令書が入っていた。

 「師団司令部からか。攻撃開始の時刻が決まったか」

 「偵察が間に合いますかね?」

 ラットは心配そうに尋ねる。

 「問題は無い。作戦結構は2日後。手順に変更は無しだ」

 クレアは命令書をその場で灰皿に置き、マッチを擦り、その上に置いた。

 命令書は燃え上がり、灰と化す。

 「すぐに偵察を出せ。知れる限りの情報を集めるんだ」

 クレアの命令で、ラットが駆け足で天幕から去って行く。

 

 クレアの命令によって、1小隊、2小隊から出された2個の偵察班はすぐにザラーク市周辺に向けて、出発した。

 クレアの部隊には古参も居るが、多くは新兵ばかりだ。元々、革命軍はまともな軍隊では無いのだから、その志に惹かれて集まってきた平民ばかりなのだから、仕方がない事だが、それはすなわち、部隊の規律や戦力に影響を与える。

 1小隊は丁度、そんな感じであった。

 班長であるイワンは軍曹としての経験はあるが、元がただの平民であり、まともな軍事訓練を受けてないだけに基本が出来ていない。部下達もまともな軍事訓練を受けてはいない連中なので、どこか緊張感が欠け、迂闊であった。

 彼らはザラーク市の北へと向かった。そこにはザラーク市へと入る正門がある場所だ。そして、革命軍の主力部隊が突入を決めている場所でもあった。

 無論、ここの情報も必要であった。

 だが、慎重に動かなければ、敵の警戒も厳しいと推測される場所であった。

 そして、その危惧は事実となる。

 彼らは貴族軍の偵察部隊と鉢合わせしたのだ。

 しかも、あまりに無防備な状態で。

 まだ、距離があると思っていた彼らは早足で進んでいる時に貴族軍と遭遇する。当然ながら、普段から薬室に銃弾を装填させているわけがない。下手をすれば、銃に埃が入らないように銃口にカバーを被せてある場合もある。

 だが、そんな彼らの相手は訓練された貴族軍であった。彼らは警戒態勢のまま、動いており、遭遇したと同時に銃の装填を終えて、発砲した。

 最初の一撃で、イワンの部隊は半数が被弾した。

 「は、反撃!」

 イワンは咄嗟に指示を出した。だが、すぐに反撃が出来る程に兵士達の練度は高く無かった。ある者は銃を構える事なく、逃げ出した。

 イワンは手にした短機関銃の装填を終えて、構える。

 その先には馬に跨る甲冑姿の騎士が居た。ある意味で好機であった。甲冑から覗く瞳には明らかに恐怖の色があった。

 イワンはやれると思った。分厚い甲冑でも至近距離ならピストル弾でも貫ける。そう思ったからだ。

 発砲された銃弾は貴族の甲冑を叩く。それに慌てたのか騎士はバランスを崩しそうになるが、咄嗟に放ったのだろう。魔法で生み出された炎の球がイワンを襲った。大きな炎の球では無かったが、イワンの上半身を焼くには十分だった。

 激しい炎にイワンは火傷を負い、その場に倒れた。

 「若様、大丈夫ですか?前に出ては危険だと・・・」

 騎士の後ろから駆けて来た従者が心配そうに言う。

 「す、すまない。馬が勝手に・・・」

 ロイスは相当に動揺した様子で答える。

 「若様!初の戦果であります」

 ロイスの兵が笑いながら上半身を火傷したイワンの髪を掴み、見せる。

 「おぉ!若様。自ら、戦功をあげられるとは。そいつは生きているのか?」

 「何とか。火傷が酷いですが」

 「連れて帰れ。若様の功績を見せつける良い捕虜だ」

 

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