エピローグ 世界を救ってくれますように

 別世界で死を味わったというのに、目覚めは爽快で、胸に穴が開くほどの虚無感は訪れていなかった。


 夢幻の世界で死んでしまったら、喪失感に苛まれるはずなんだけど、なぜだろう。


 疑問には思ったけれど、答えは見つからなかった。


 ただ、目元は引いてしまうくらいの涙で潤されて、書きためていたノートまで濡らしていた。


 片付けをして、仕事の準備をしなくちゃと体を起こすと、昨日魔王への手紙を書きなぐっていたページに、新たな文章が追加されていた。


 その文章に目を走らせる。


 書いてある内容を理解した時、様々な疑問が氷解した。


 昨日瑠璃ちゃんが放った言葉の意味も、行為に隠された想いも。


 全て、理解した。


 僕はこの現象を、こちらの世界だけに訪れた、奇跡とも呼べる代物だと思っていたけれども。


 その流れは、決して一方通行のものでは、なかったんだ。


「そうか。瑠璃ちゃん、君は……」


 その瞬間、体の半分を剥ぎ取られたような痛みを感じた。


 あらゆる悲しみが訪れ、意識すらも持っていかれそうな、圧倒的な喪失感に襲われた。


 自然と、もとから人体の仕組みがそうであったように、止めどなく涙が溢れていった。


 ああ、きっと。


 今この瞬間。


 勇者トウワは終わりを迎えたのだ。


 体も、心も奪われそうな喪失の痛みも、いずれは忘れてしまうのだろう。


 そうなる前に、心が覚えていられる間に、僕は精一杯、祈った。


 僕の大好きな優しい魔王様が。


 どうか世界を。


 救ってくれますように。

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拝啓 魔王様 〜 魔王に捧げるラブレター〜 遠藤孝祐 @konsukepsw

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