決闘


 深紅の髪を揺らしながら、教師であるバレリアが歩いてきた。しかし、その様子は、怒っているというよりは、呆れている、そして、少しウキウキしているように見えた。


「まったく。いったい、なにをしてるんだ?」

「こ、こいつらが食事中に騒がしくて」

「騒がしくないし、騒いでいるのは君だし、騒がしくしているのも君だけだ」

「くっ……なんだとっ!?」

「いい加減にしなさい! 子どもか、君たちは?」

「でもっ!」


 セグゥアが反論しようとするが、バレリアはそれを手のひらで制する。


「いいかい? この学院は、実力主義だ。議論で決着がつかない場合は、決闘。それが、ここでの習わしだよ」

「……なるほど。それはいいですね」


 金髪の青年は、不敵な笑みを浮かべる。


「僕もそれで構いませんよ」


 黒髪の少年も答えた。


「フフ……よかろう、では、この決闘は私、バレリアが立会人を引き受けた。


 そう宣言すると、周囲がワッとざわめきたつ。


「……」


 噂には聞いていた。なにか揉め事が発生した時、互いに条件を決めあって競う。互いの合意があれば、どのような競技、ルールでも構わない。勝敗が決すれば、敗者は勝者が提示したペナルティに従わなければならない。


「では、まず敗北した場合のペナルティについて決めようか」


 バレリアはウキウキした様子で尋ねる。どうやら彼女、かなりの揉め事好きらしい。その好奇心旺盛な瞳が、明らかに楽しんでいる。一方、セグゥアは歪んだ笑みを浮かべて、ヘーゼンを見下すように答える。


「提示する条件は……そうですね、負けたら、『この学院を出て行く』というのはどうですか?」


 途端に、周囲がざわめきたつ。


「なっ……そんなの横暴だわ!?」

「エマ、口を慎みなさい。対決人以外の干渉は何人であろうと許されない」

「で、でも」

「条件に不満だったら、断ればいいだけの話だ」

「へ、ヘーゼン。断ろう? 私が謝るから」

「君が謝ることなんて、なにもない」

「でも……私……ヘーゼンのいない学校なんて……」

「……」


 エマがギュッと服の袖を握る。そして、そんな様子をヘーゼンは数秒見つめ、やがて小さくため息を吐く。


「恐ければ、別の条件にしてやってもいいが」


 なおも、セグゥアは挑発をやめない。


「負けたら退学……その条件は飲めないな」

「……ククク、臆病者が。よほど、自信がないのか?」


 心底嘲ったように笑う。


「時間も場所も方法もすべて君が決めていい。しかし、勝敗が決した時のペナルティだけは、僕に決めさせて欲しい」

「ハハハハッ! そこまでしてこの学院に残りたいか? あれだけ生意気な口を聞いておいて。恥ずかしくないのか?」


 周囲からも、失笑が漏れた。ここでは、臆病者は馬鹿にされる。正しかろうと、悪かろうと、強く勇敢な者が好かれるという校風なのだろう。しかし、ヘーゼンは平然とした様子で答える。


「僕は別に何も感じないな」

「ハハハ……クククク……わかった。君がこの上なく恥知らずということがね。では、ペナルティは君が決めていい。ただ、最低限のものだけは入れてくれよ?」

「最低限?」

「当然だ。あんまり軽いものだと、観客も満足しないだろう。こちらだって、最低限、君が土下座でもしてくれないと、気が治らない」

「……わかった。それは、飲もう」

「ククク……それならば、こちらに異存はない」


 セグゥアは不敵な表情で答えた。


「バレリア先生も、それでいいですか?」

「ああ。やはり、君は面白い」

「では、成立ということで」


 ヘーゼンは淡々と答える。


「それで? 土下座を含んだ条件を聞こうか?」




















「生涯、奴隷」

「えっ?」


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