会話


 その後、いつも通り3人で朝食を食べ始めた。カク・ズには、相変わらず大量の鶏肉を摂取させているので、食卓の半分以上は彼の肉料理で埋まる。


 しかし、巨漢の少年は躊躇なく、一心不乱に鶏肉を頬張る。そんな様子を隣で眺めながら、ヘーゼンは口を開く。


「ふむ……見たところ、筋繊維の密度がやっと常人離れしてきたな」

「それ褒めてるのかな!?」


 エマがいつも通り、驚愕の表情を浮かべながら指摘する。


「もちろん褒め言葉だよ。むしろ、よく壊れずにいたなとカク・ズの身体強度に脱帽している」

「こ、壊そうとしてたのあなた!?」

「破壊と再生こそが、成長の近道だからね。まあ、そう言う意味だと、破壊して超速で回復したという事だから、君の問いは、正しい」

「そう言うことをいっているのじゃないのだけれど!?」

「要するに想像以上に成長していると言うことだ。これならば、僕の考案する魔杖も使いこなせそうだ」

「な、なんだか、とんでもなさそうな予感がマシマシなんだけど」


 不安げな様子で、つぶやくエマ。


「とんでもない。カク・ズの特性を活かした素晴らしい魔杖だよ。君は肉弾特化型だが、遠隔攻撃には弱い。だから、遠隔でも届く武器のような魔杖がいいと思うんだ」


 そう言いながら、数個の設計図を見せる。


「な、なんだかわからない。すごいのか、すごくないのか」

「もちろん、魔力はこもっている。それに、単純な武器では、強敵には通用しない可能性がある。伸縮可能かつ、どの角度からでも攻撃できるような性能にしたい」

「そ、そんなとんでも兵器。どんな危険地帯にカク・ズを放り込む気!?」

「少なくとも、数千の兵に囲まれても、蹂躙できるような魔杖にしたい」

「どんな絶体絶命の戦場!?」


 エマが驚愕の声をあげるが、ヘーゼンは気にせず食事を続ける。


 そんな風にいつも通りワイワイ話していると、隣の席で食べていた優等生、セグゥアが食卓を大きく叩く。


「うるさいな! 食事は静かに食べろ!」


 途端に、静寂があたりを襲う。


「あっ、ご、ごめんなさい」


 エマがシュンとした様子で、慌てて謝る。


 しかし。


 そんな事はまったく無視して、ヘーゼンは話し続ける。


「カク・ズ。これからは、戦闘においての立ち回りなどを身体に叩き込んでーー」

「あ、あの。ヘーゼン。しーっ」


 エマが慌てて自身の唇に指を当てる。


「ん? なんでだい?」

「……っ、ほら。セグウァ君がうるさいって」

「うるさい? 普段と同じトーンで話していると思うが」

「そ、その、私たちが。いや、私の声が大きかったのかも」

「そんなことないよ。別にうるさくはなかった。むしろ、いつも通りだった」

「……ヘーゼン」


 その時、セグゥアは猛然と立ち上がってヘーゼンに詰め寄る。

 

「君たちの会話で食事が台無しだ。ここにいるのは、君たちだけじゃないんだぞ!?」

「よくわからないな。ここは、食堂だよ? 話しながら食べるなど、ごく自然な行為だと思うけどね」

「それでも限度があるだろう!?」

「エマの声はそんなにうるさくなかったし、許容内だと思うけどね。声の大きさで言えば、今の君の声が12.6倍ほど大きいが、まあ、ここは食堂だし僕は構わないけどね」

「……っ」


 そう言った瞬間、セグゥアがヘーゼンを睨みながら凄む。


「調子に乗ってるのか……ヘーゼン=ハイム? 少しくらい器用な芸当ができるからと言って、いい気になるなよ」

「食堂で会話することが、なぜ調子に乗ることになるのかな? それに、なんの授業の事を言っているのかわからないが、現時点でこの程度しか成長できていない自分に失望しているよ』

「……っ」


 思わず、後ずさるセグゥア。そんな彼に背を向け、ヘーゼンは「すまない、邪魔が入った」とカク・ズに向かって会話を続ける。


「おい! まだ、話しは終わってない!」

「うるさいな、だったら勝手に話しかけてればいい。僕は今、カク・ズとエマと話しているんだ。邪魔をしないでくれるかな?」

「……っ、このぉ」

「ご、ごめんなさいっ! 私がうるさかったのよね? 今後、気をつけるから」


 その時、泣きそうな表情をしたエマが立ち上がって謝った。


「はっ、最低だな。ヘーゼン=ハイム。女に謝らせるのか?」

「……」


 セグゥアがそう言い捨てて戻ろうとした時、ヘーゼンはエマの方を見る。


「エマ、謝る必要はない。僕は、食事の時に君とカク・ズと話したいんだ」

「……ヘーゼン」


 瞬間、彼女の顔が真っ赤に染まった。


 そして、黒髪の少年は立ち上がって、金髪の青年を見つめる。


「エマの謝罪は撤回する。僕らは、ここでいつも通り食事をする。もちろん、今まで通り話をしながら食べる。食事とはそういうものだからね」

「みんなが迷惑してるんだよ! なぁ?」


 セグゥアが振り返って見るが、誰も賛同せずに下を向いている。


「どうやら、君だけらしいが。それを、『みんな』と言うのは、誇大妄想甚だしいんじゃないか?」

「だ、黙れよっ! 言い出せないだけだ!」

「さっきから君の主観だけで物事を話しているが、君は5歳児か? 客観的に分析して話すことができないから議論にもならない」

「な、なんだとっ」

「そこまでだ!」


 大きな声が2人を遮る。


 そこにいたのは、教師のバレリアだった。

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