エピローグ

 くだんの空き地に裕哉が足を踏み入れた時、そこにはすでに先客がいた。それは壁に向かい、一輪の花を手向ける三嶋だった。三嶋はちらりと裕哉を一瞥すると、独り言のように話し始める。


「昨日よ……親父に話してみたんだわ。どうせ信じねぇだろうとも思ったんだが、まぁミカさんのこともあるしな。そしたらよ、親父の奴。泣いてやがった。あんな顔、はじめて見たぜ全く」


「よく信じたな親父さん」

「ま、自分の事だったし。30年以上前の話っつってもな。しかし、蒐集部ってのは毎回こうなのか?」


「こんな激しいのは久々だよ。普段はああいう悪いものが溜まらないよう巡回したりの雑用だな」


「いいじゃねーか、それで。ミカさんみたいな想いは無くせなくともよ。それを利用しようっていう不届きな輩はぶっとばさなきゃなんねー。そうだろ? 俺にも手伝わせてくれ」


「入部するってことか? 大神田がなんていうか……」


「もえは関係ねーだろ。……この空き地、結局事故のせいで工事は中止で、負債やら何やらでそのままなんだとよ。親父もあれこれ動いたらしいぜ。知らなかったわ。てなわけで、ここへの巡回は俺がやるんでよろしく」


「ま、皆に聞いてみてだな」

「おいおい入部拒否する部活とか聞いたことねぇぞ」

 これは吉岡もやってきそうだな、と裕哉は頭を掻いた。


 昨日あのあと吉岡に、

「はじめはただ顔が良かったっていうのと、変わっているっていうのがポイントだなだけだったんですけどね。……私は諦めませんので、あしからず」

 とよくわからない宣言をされていた身としては、手は欲しくとも問題児が増えるのは頭の痛い話であった。


「んじゃ裕哉、俺の失恋の慰めとしてカラオケ行こうぜ」

「失恋?」

「そう、俺の初恋だぜ? ここで彼女の耐え忍ぶ声を聴いた時から、虜だったのさ。ま、フラれちまったけどな」

「父親と同じ相手が初恋とか、マジかよこいつ。まぁカラオケくらいなら良いが。皆も呼ぶか?」

「よせやい。ここは男だけで失恋ソングといこうじゃねぇか」

「それ俺関係ないよな……」


 二人は、花を残して空き地を去って行った。三嶋は一度だけ振り返ったが、未練など残さない。ここには、何度だってくるのだから――。

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あやかししらべ【星祭編】 草詩 @sousinagi

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