――どうして転職しようと思われたのか、教えていただけますか?

K うーん……。なんていえばいいんですかね、前職は、確かに多くの人の役に立っていたんですけど、それを自分で実感できる機会が少なかったんですよね。だから、自分で直接、顧客の笑顔に接するような仕事がしたかったんです。

――今は、笑顔を実感されているわけですね。

K そうですね。本当に問題が解決して、顧客から「ありがとう」って言ってもらえたら、ああ、やってよかったな、って感じます。こういうやり方だから(笑)、時間と手間がたくさんかかっちゃうんですけど。

――充実感があるわけですね。

K はい。前職は、ある意味で、仕事を終えた後はもう後の人にお任せって感じだったんですね。今は、相談を受けたところから最後まできっちりお手伝いできるので。それが本当にやりがいにつながってるな、って感じます。

――でも、忙しいんじゃないですか?

K はは、確かに(笑)。時には何件も掛け持ちして進めることになっちゃいますから、スケジューリングが大切ですよね。もう若くないので、規則正しい生活の大切さを実感してます。

――仕事とプライベートの使い分けってされてますか?

K うーん……あんまり、ないですね。仕事が趣味って感じで(笑)。むしろ、仕事していないとストレスがたまってきます。休日もあんまり関係ないですし、そういう意味では毎日充実しています(笑)。






 男の姿を見ると、うれしい、と思うようになっていた。

 男がいるときだけは、音楽を止めてくれる。ただでさえ眠れていない頭の中を、古臭いテクノがぐるぐるとまわり続ける。何十分もしてから、ようやく耳がかすかに聞こえるようになってくる。

 いつものようにコトを済ませてから、男は俺の耳元に顔を近づけてこう聞いた。

「何か、願いはあるか?」

 俺は、何度も何度も口を動かして、そのたび声の出し方を思い出そうとしていた。

 何度も、何度も。男はそれを辛抱強く待っていた。

「いえに……」

 自分で自分の声を聴くのがあまりに久しぶりで、驚きで声が止まった。

 目をぐるぐる回しながら、必死に言葉をつづけた。

「いえに……かえりたい……」






――では、家族の絆を取り戻すことができたわけですね。

K そうですね。息子さんも、本当に家族の大切さを思い出してくれたみたいで。今では、ずっと家にいてくれて。家族の時間が増えたらしいです。

――顧客の笑顔ですね。

K 私のところに相談にいらしたのは、やっぱりご両親ですから。そちらの気持ちを大事にしたかったんですよね。でも、喜んでくれました。「昔みたいな関係に戻れた。前よりもずっと距離が縮まった気がする」と。本当にうれしかったです。

――転職で、Kさん自身の人生も輝いたわけですね。

K このコーナー風に言うなら、そうなりますね。ちょっと照れくさいですけど(笑)。

――そろそろお時間なので、これから転職を考えている方に対して一言お願いします。

K うーん……他人を変えたいなら自分から。当たって砕けの精神を持ってほしいですね。

――「当たって砕けろ」ではなく?

K はい(笑)。

――Kさんらしいお言葉ですね。本日はありがとうございました。

K ありがとうございました。

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意外な転職!?インタビュー!/暗い部屋 五十貝ボタン @suimiyama

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