第45話 柔らかな心

 能力者協会が、コツゴモリを監視下に置こうとする。

 ナツゾラは立ち向かった。

「監視しなくても大丈夫ですよ。ナツゾラさんが、ずっと一緒ですから」

 ヤヨイが言った。

 あっさり引き下がる協会の人々。

「ちょっと、見習うべきところはあるかも」

 カケルがつぶやいた。

 気合い十分に宣言するヤヨイ。

「というわけで、コツゴモリさん。改めて勝負しましょう!」

「見習っていいのかしら」

「俺は、何も言わないほうがいいと思うぞ」

 スズネとタクミが明るく話し続ける。

 メガネの青年は笑っていた。メガネの位置を直す。銀髪の彼女は、すこしだけ口元を緩めた。


「手が届かなくなっちゃったのかな」

 自分たちの広場へ移動する途中で、カケルが言った。

「なんの話?」

「僕は、ヤヨイに追いついて、追い越す気でいたんだけど」

 深緑色の服の少年が、すこし寂しそうに話した。

「カケルにも、できるよ」

 赤い服の少女が、間髪入れずに言った。迷いはない。

 十代半ばの少年は、隣の少女を見る。大きな目を細めて、まぶしい笑顔で見つめ返された。少年の顔が明るくなる。

「ヤヨイが言うと、本当にできる気がするよ」


 ヤヨイ組の広場に集まった面々を、かたむいた日が照らす。

 隠れていたシララが出てくる。

 協会の人に見つからないようにしていた。少女は、恥ずかしがり屋だった。

 白い建物を背に、緑の円のなかに立つ、二人。

 吸収能力と回復能力で、ヤヨイとコツゴモリの力は回復していた。

 ロングヘアの少女が言う。

「物理世界に干渉しない条件で」

「いい戦いをしよう」

 コツゴモリが答えた。

 おたがいがルールに同意。戦闘空間が広がっていく。

 二人の肉体が、光の壁につつまれる。

 精神体が分離した。

 白色の服になったヤヨイは、いつものように楽しそうな表情。

 黒に近い濃い紫色の服になったコツゴモリも、すこし楽しそうな表情を見せる。

 銀髪の人物に陰りはない。力の暴走も見られない。

 ナツゾラは、穏やかな表情をしていた。


 能力バトルが始まる。

 ヤヨイが、右手で淡く光る刀を握る。

 コツゴモリは、両手で淡く光る薙刀を握る。明るい色。

「よろしくお願いします!」

 ロングヘアの少女は、いつものように元気よく言った。

「うむ。よろしく」

 ショートヘアの少女は、慣れない様子。

 いつものように、見物人が集まってきている。あたりが赤く染まるときは近い。

 ヤヨイは、順番に別の能力を使って戦う。

 意図を理解したコツゴモリが、応戦していた。

 ナツゾラは嬉しそうに見ている。

 シララは応援していた。

 見物人に混じって、それぞれの能力の使い手たちが見守る。

 カケルが冷静に見つめる。スズネは明るい。タクミも、相変わらず軽快。

 アイムは楽しそうだった。

 カイリとコスミが、自分のことのように喜んでいる。

 ガイは熱くなっていて、ダンとジョーが慌てて抑えこむ。

 エミリとレオンは、並んで観戦中。

 チカコは、前よりうまく笑えるようになっていた。

 ヤヨイが心から笑う。

 コツゴモリは、初めて能力バトルを楽しんだ。

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一念少女 多田七究 @tada79

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