第44話 人の心

 黒い薙刀を構えた少女は戸惑っている。

「人のままで、その力を使い続けられるはずがない」

 コツゴモリは防御を捨てた。

 縦に、横に、斜めに、一心不乱に攻撃を続ける。広い道と、そばの建物にヒビが入る。

 ショートヘアの少女は、憎悪ではない感情のほうが強くなった。

 両手それぞれに刀を持ったヤヨイは、薙刀を防ぎながらも攻撃している。

 身体を回転させ、左手の刀を振るう。

 与えられていくダメージ。

 ロングヘアの少女は、自分に届いた人々の思いを感じ取っていた。

「これが人の思い、信じる強さ」

 刀に、力が込められるのが分かった。

「ナツゾラさんのことを信じてあげて」

 ヤヨイは、コツゴモリの表情の変化を見た。すこしだけ目を細める、悲しそうな表情の少女。

 刀を振るい続け、言葉を、思いをぶつけるヤヨイ。心とともに光を叩き込む。

「ナツゾラさんは、あなたを信じている」

 片方の武器がくだかれる。

 最後の攻撃が当たり、訪れる決着のとき。

 黒い服の少女は倒れた。


 コツゴモリが目覚めた。

 横になっているのは、灰色の広場。まだ辺りは暗くない。

 街は普段どおりに見える。

 物理世界に影響できるようになったヤヨイが、回復能力を使っていた。

「終わりか」

 コツゴモリには希望がなかった。

 愛する者ができても、永遠を生きる者には意味がない。必ず相手が先にいなくなる。

 銀髪の人物は、何をしていてもひとりだった。

「わたしは、あなたを助けたい」

 ヤヨイが自分の思いを伝えた。本体に戻っていて、赤い服。

 倒れている華奢きゃしゃな身体にかかる影。広場に、ナツゾラがやってきた。

 サラサラと流れるショートヘア。

 上半身を起こしたコツゴモリが呟く。

「遅かったな」

 悲しそうな顔をしている彼女を、ナツゾラは抱きしめた。

「救う方法を探しましたが、見つかりませんでした。すみません」

 黒い格子柄の服を着た青年の身体は、震えている。

 強く力が入っているのを、コツゴモリは感じた。

「……」

 黒い服の人物は何も言わず、メガネの青年の背中に手を回した。

 その手に力を入れる。

 手だけではなく、全身に力が入った。

 銀髪の人物の目から、涙が流れた。


「一緒に行けばよかったじゃないですか」

 ヤヨイが口を開いた。

「空気読んで話してなかったのに、唐突だな」

「本当に、さすがね」

 タクミとスズネはヤヨイを褒めた。

 微笑んでいるカケル。

 赤い服の少女が続ける。

「ご夫婦なんでしょう? 一緒にいるのは当然じゃないですか」

 抱き合っている二人の身体が、ぴくりと動いた。

 照れた様子のコツゴモリは、手の力を強めた。

「まだまだ心に成長の余地があるなんて、恐ろしいよね」

 短髪の少年が、優しい顔になった。

「言えなかったんですよ、一緒になんて」

 メガネの青年は、すこし照れていた。

 力説するヤヨイ。

「言わないと駄目ですよ!」

「それと、夫婦ではないですよ、まだ」

 ナツゾラが付け加えた。

 口を開くコツゴモリ。

「言って欲しかった」

「分かりました。これからは、ずっと一緒です」

 ナツゾラが手の力を強めた。

「もう、人の心があるから、力は暴走しないですよね!」

 ヤヨイは嬉しそうだ。

 チームの三人が、困ったような顔をしながら微笑んだ。

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