第五章 柔らかな心

第41話 怪物の力

 能力者のうりょくしゃたちは競い合い、おのれを高めていた。能力者の聖地せいちと呼ばれる町。

 広い大陸の広い道には、街路樹がならぶ。鳥が飛び立った。

 あまり車の姿がないのは、列車に乗る人がおおいため。市街地の移動は、もっぱら地下鉄。

 ヤヨイとカケルは、夏服で朝の運動をしていた。背にするのは白い建物。足元は緑色の広場。

 朝食のあとで広がる光のドーム。スズネとタクミを加え、模擬戦もぎせんが繰り返された。肉体から分離して精神体がぶつかり合う。

 おおぜいの見物人にかこまれ、昼食のあともバトルは続く。高い位置の傘が日差しを軽減してくれる。

 歯磨きが休憩がわり。平和な時間がすぎる。

 高い建物の陰に、日がかたむいていく。

 夕食のあとで、基礎訓練も終える。それぞれの部屋で歯を磨く四人。

 タクミは成長を実感していた。

 橙色だいだいいろの服のスズネも、自身の成長を実感していた。口には出さない。

 カケルは上を目指していた。すでに、アイムと戦ったときのヤヨイを超えている。

 赤色あかいろの服のヤヨイは、嬉しそうな顔をしていた。

 とつぜん、遠くで音がして地面を揺らす。一瞬のできごと。

「爆発?」

 自分の部屋を出ようとした四人が、同時に気付いた。


「事故か、事件かしら」

「だろうな。揺れたろ、今」

 部屋から出た夏服の四人。集まって話す。ミドルヘアの少女が意見を述べ、長身の少年が同意した。

 能力者たちは、戦闘空間せんとうくうかんのみで力が使える。物理世界には干渉できない。

「ヤヨイ。危ないよ」

 短髪の少年が、いまにも駆け出しそうな少女の手をつかむ。少女よりすこし背が高い。

「連絡がつかない。様子を見にいく」

 ロングヘアの少女は慌てていた。伝えるべき内容を話せていない。スカートが揺れる。

 爆発の起こった場所では、煙が上がっている。日が長くなっているため、夕暮れはまだ先。

「あの辺に友達がいるんでしょ。僕も行く」

「仕方ないから一緒にいくか」

「何かあったら、盾になってよね」

 タクミとスズネがいつもの調子で言う。四人は、現場付近に向かって歩き始めた。


 現場に、燃える物はなかった。

 ただのまるい広場から煙がでている。

 灰色にかこまれて佇む、黒色くろいろの服の少女。十代半ばに見える。

 ショートヘアの少女が使っているのは、何かの能力。周りにドームは見えない。

 手からたまが放たれる。着弾地点が爆発ばくはつした。

 車は走っていない。道路は封鎖されている。

 歩道も車道もかまわず、人々が逃げていく。その流れとは逆に、現場へと向かう人の姿。

「能力者なら、バトルでやれ!」

 赤茶色あかちゃいろの服を着た男性が叫んだ。

 しかし、見向きもされない。

 能力者同士が同意しないと戦えない。精神体になれたとしても、相手は分離中の本体を攻撃できる。

 なすすべはない。手詰まりだった。

 青紫あおむらさきの服を着た男性と、黄緑きみどりの服を着た男性が、叫んでいる男性をおさえた。

 道の端のほうに避難していく。

「さっさと逃げろ、お前ら」

 広場の10メートル手前で、紺色こんいろの服のタクミが言った。

「あんたも逃げるのよ」

 スズネが、真面目に頼む。たれ目ぎみの少年は真剣な表情。身体からだに力を入れている。

「シララを見つけるまで、わたし、逃げない」

「気持ちは分かるけど、危ないよ」

 友人の身を案じるあまり、強い口調のヤヨイ。深緑色ふかみどりいろの服のカケルは冷静。

 爆発を起こしている人物は、人を無視している。

 四人は、同じ制服を着た人たちが走っていくのを見た。


 悠然ゆうぜんと立つ、黒い服の少女。

 それを、十人以上の集団が取り囲む。手には棒。

 棒は、つよい電気が流れる仕組み。生け捕り用の武器である。

 おなじ制服の集団は、いっせいに襲いかかる。電流の発生が目視で確認できた。

 しかし、少女は涼しい顔のまま。

「戦闘空間を、身体の周りに発生させているのか」

 カケルは仮説を述べた。

 戦闘空間内では物理的な攻撃ができない。薄いまくの状態で戦闘空間を形成していれば、説明可能な現象だ。

 タクミとスズネは、目の前の怪物に震えている。

「反則だぜ」

「ヤヨイ。逃げるわよ」

 つり目ぎみのスズネが、ヤヨイを抱きしめた。

 ヤヨイは、黙って前を見つめている。銀髪の少女は、すこし悲しそうな表情をしていた。

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