第40話 ヤヨイ対アイム 2戦目

 赤い服の少女と、青い服の少女が立っている。

 広がっていく光のドーム。

 北側の白い建物の前。緑の円のそとで見守る三人をとおり抜けて、さらに膨らんでいく。

 どちらも精神体が分離。

 白い服になったヤヨイは、構えなかった。青緑の服になったアイムの出方を見た。戦闘空間が大きく広がり、止まる。

「そろそろ、ヤヨイにもできるんじゃないかな?」

 アイムは、淡く光るかたなを出現させた。

「それは、ナツゾラさんと同じ?」

 ヤヨイが言い終わると、アイムが仕掛けた。光の剣をにぎって応戦するヤヨイ。

 アイムの構えは、流れる雲のように表情を変え、ときには激しく変化している。

 空を体現したような戦い方だ。

「型にとらわれない強さ」

 カケルが呟いた。

「見たこと、あるでしょう?」

「やっぱり、ナツゾラさんを知ってるんですね?」

 アイムの流れるような構えに、ヤヨイは見覚えがあった。メガネの青年の構えと、よく似ている。

 手も足も出なかった戦いを、すこし背の低い少女は思い出していた。

「そっちは、教えてもいいかな」

 おさげのアイムは、話しながら鋭い攻撃を繰り出す。あの時はどうにもならなかった攻撃を、しのぐヤヨイ。

「知り合いでね。構えが上手くできてるって、褒めてもらっちゃった」

 アイムの動きに、心に、余裕のあることが傍目はためからも分かる。

「ナツゾラさんの用事というのは、何ですか?」

 話を続けながら、左手にも剣をにぎる。光を放つ2本目の剣。

「それは、ちょっと言えないな」

 アイムが鋭く斬りつける。ヤヨイのひじから伸びるやいば。かろうじて受けた。


「ばねを使って逃げて、遠距離から削ればいいだろ」

 見かねて、タクミが正しい戦術を伝えた。

「弾を撃っても、刀で斬られるよ」

「ガード無効攻撃を当てるか、右腕を奪うのがいいかな」

 2つの剣を構える少女に向けて、カケルが考えを言った。

 スズネも口を開く。

「反射させて、ひたすら高速弾を撃ちまくる手もあるわ。えげつないわよ」

 その様子を見て、楽しそうなアイム。

 戦いながら、ヤヨイは笑っていた。


 ヤヨイが、発条ばねつきの壁を使い遠距離へと離れた。

 アイムのまわりに無数のかがみを作り出す。手の甲を光らせて、豆粒ほどの高速弾こうそくだんを連続で発射。

 音速を超えた弾を刀ですべて弾くことはできず、ガードも使う。

 アイムはダメージを受けた。

 動きを封じたところで、ヤヨイは足元に壁を設置していた。

 作動したばねで、身体が上に跳ばされるアイム。

 すでに、上空には壁が配置されている。横からはさみ込むようにばねが作動し、壁の表面が命中。アイムの動きが止まる。

 ヤヨイは、ばねを使い接近した。

 右腕が黒くなる。ばねにはさまれたアイムの右腕をうばい、左手でガード無効むこうの攻撃を叩き込む。

 ふたたび、ばねで移動して距離を取る。

 ばねつきの壁が消え、自由になる青緑の服の少女。

 白い服の少女は、要所で一瞬だけ高速移動こうそくいどうの能力を使って、機敏に動いていた。

 えげつない戦い方だった。

「AA以上は確実ね」

 アイムが、左手で刀をにぎって微笑む。その精神力は残りわずか。

 ヤヨイの精神力は、半分以上残っている。

「どうしても、知りたいんです。今度、正々堂々戦いましょう」

「勝ってから言えよ、そういうことは」

 タクミは強い口調だ。

 それを受け、手加減しないヤヨイ。アイムの周り、広範囲に壁を配置。上には鏡を設置。高速弾を撃った。

 爆発ばくはつする弾も撃ち込む。さらに、壁で囲った。

「さすがに、これで決まりね」

 スズネが断言した。タクミは渋い顔。

 消えない戦闘空間。

 壁が切り裂かれ、アイムが現れた。背後で爆発が起こる。

「……」

 獲物を見つめるような表情をしながらも、少し微笑んでいるカケル。


 ヤヨイは小細工をやめた。

 剣を構え、相手を見据える。

 アイムの動きは素早い。だが、ヤヨイにはゆっくりと見えた。

 とらえどころのない動きに、高速移動能力で対応する。

 攻撃は、2本の剣だけではない。

 伸びる無数の刃。

 おたがいに、何度も攻撃を仕掛ける。ぶつかりあう剣と刀。

 相手をとらえたのは、少女の剣。

 微笑するアイム。

 ヤヨイは、勝利した。精神体が本体へと戻る。バトルで肉体が傷つくことはない。


「ありがとうございました!」

 赤い服のヤヨイが、対戦相手に敬意を表した。

 アイムは何も言わず、右手を差し出す。手がにぎられ、朝日をあびて握手を交わす二人。

「もう分かってると思うけど、私じゃないよ」

 コツゴモリは、アイムではなかったようだ。

「じゃあ誰なんだよ」

「それは、協会の許可がないと言えないの」

 タクミの問いに、答えられない、というのが答え。

「忙しそうにしてたのは、そういうわけだったのね」

 スズネは納得していた。

 カケルが疑問を投げかける。

「こんなところで力を使って、よかったんですか?」

「精神力、使いすぎちゃったから、怒られちゃうかも」

 おさげのアイムの言葉を受け、ヤヨイがバトルを申し込む。

 回復能力をアイムに使った。

 ヤヨイも精神力を消費していたため、提供を申し出たタクミから吸い取っていた。

 今度お礼をすると言って、アイムは街の中に消えていく。かわりに見物人がおおぜい押し寄せてきた。


 おさげの少女の姿が見えなくなってから、カケルが言う。

「優しいね。アイムさんは」

「うん。飛行能力ひこうのうりょくを使われていたら、どうなってたか」

 ヤヨイの頭は、バトルのことでいっぱいのようだ。

 考えていたことを言わなかった、短髪の少年。確証がなかった。

「さあ、いつもの修行の時間だ」

「訓練か、練習って言ってよね」

 タクミの言葉に、スズネが返す。表情と同じで、明るく、優しい言葉。

 模擬戦が始まる。

 笑顔で戦う、たれ目ぎみの少年と、つり目ぎみの少女。

 いつの頃からか、精神体でも、雰囲気が大きく変わらなくなっていた。

 熱い戦いを見ながら、ヤヨイはカケルと話す。ロングヘアの少女は、楽しそうに笑っていた。短髪の少年も笑顔になる。


 それから、ライバルたちと何度も拳を交えた。

 新しい挑戦者も現れ、ヤヨイたちはさらに上を目指した。

 バトル以外のことも話した。そちらの上達速度は遅い。

 得意分野と苦手分野、両方を鍛えた。

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